まず、三陰交穴を選びます。
つぎに、志室穴付近をよく緩ませ。
症状によって、合谷穴・足三里穴などを使います。
「婦人科疾患で、よく使われるツボは?」と聞かれたら、迷わず「三陰交穴」と答えます。
婦人科疾患、イコール、三陰交穴。は、学生でも知っている、基本中の基本。
よく使うということは、よく効くということ。
婦人科疾患の場合、馬鹿の一つ覚えで良いので、三陰交穴を使いましょう。
置鍼でも良いし、テイシンを使って気を送りこんでも良いでしょう。
陰経のツボを使ったら、陽経のツボを使わなくてはなりませんが、三陰交穴の場合は、必要ないように感じます。
根拠はありません。そのように感じるだけです。
もし、不安なら、足三里穴でも使って、バランスを取っておいてください。
次に使うのは、志室穴付近のツボです。
江戸時代などの書籍では、「痞根(ひこん)穴」と呼称されているものもあります。
婦人科疾患のばあい、良く反応が現れます。
親指と人差し指、もしくは親指と中指で、背骨を挟むようにして探ると、探しやすいです。
ここは置鍼で良いでしょう。
症状によって、いろいろなツボを使いますが、合谷穴や足三里穴は、よく使います。
三陰交穴と合谷穴をつかう、文献的根拠。
『鍼道発秘講義』という書物に、以下のような記述があります。
三〇、婦人の鍼
『孕(はら)める時は、合谷、三陰交を忌(い)むべし。石門を多く刺せば、孕むこと無し。余(よ)は、男に同じ。』
三一、難産の鍼
『もし産すること遅く、難産とならば、子安(こやす)の鍼を用ゆべし。痞根、章門、京門を深く刺すべし。又、腎兪、大腸兪、陰陵泉、三陰交に引くべし。合谷、強く刺すべし。後産(のちざん)下(お)りざるには、巨闕、大横、水道を刺すべし。又、徹腹を深く刺して、下りる事妙なり。』
三〇章の「婦人の鍼」、「孕める時は、合谷、三陰交を忌むべし」は、「禁針穴」の意味ではなく、「よくよく注意して施術せよ」の意味。
具体的のどう使うかは、三一章の難産の鍼の条文を見ると分かります。後述します。
また、「石門を多く刺せば、孕むこと無し」も、「禁針穴」の意味ではなく、「よくよく注意して、手技が乱暴にならないように、丁寧な治療をこころがけなさいよ」の意味です。
石門穴はよく、「不妊治療」に良く使われるツボです。
下焦に位置するので、手技は基本的に「補」。
「補」という事は、下焦の状態は、「虚」であることが予想されます。
普通に考えても、「下焦が充実しているのに不妊症だ」という事は考えにくいので、「虚」でしょうね。
顕著な場合は、「大いに虚」の状態にもなるでしょう。
手技はもちろん、「大いに補う鍼」になります。
冷えている可能性も多いので、「あたためる鍼」ともなるでしょう。
ちなみに江戸時代、不妊症の女性を「石女(うまずめ/せきじょ/いしおんな)」と呼んでいたそうです。
現在では、ものすごい差別用語ですが、これを、「石のように硬い腹のために、子どもを妊娠できない女性」とするならば、治療のヒントになりそうです。
「石女(いしおんな)」を「石門(いしのもん)」で治療し、お腹を柔らかくしてやる。
簡単でしょ?
(※ 参考文献→『鍼灸経穴名の解釈と意義』を参照)
次に、三一章の「難産の鍼」を見る。
「痞根、章門、京門」を使って、腹部・背部のスジバリをゆるめ、子どもを産みやすく(子どもが下りやすく)します。
また、「腎兪、大腸兪」も、腹部・背部のスジバリをゆるめ、子どもが下りやすくするため。
石野信安著の『女性の一生と漢方』には、トイレ掃除などをして腰を動かし、腰の筋肉を強く、しかも柔軟にしなければならない理由が述べられています(三九頁参照)。
「陰陵泉」は、気を上から下に引くため。
「三陰交に引くべし。合谷、強く刺すべし」は、今回のメインイベント。
難産のため、子を下に下ろす事が目的なので、「合谷は、補。三陰交は、瀉」になりますが、
逆に、子どもを妊娠し、その子どもが生まれてくるまで健やかに育つようにする場合や、婦人科疾患にこの刺法を応用する場合は、「合谷は、瀉。三陰交は、補」になります。
また、「後産下りざるには…」は、オ血を下す時のヒントになります。
「後産」とは、無事赤ちゃんが産まれた後、胎盤や卵膜が出て来るまでを指します。
それが下りない。
「巨闕、大横、水道」は、基本的には腹部の穴なので手技は「補」となります。
『鍼道発秘講義』には、「フニャフニャ、ベコベコ」のお腹とあるので、手技は「大いに補」となります。
「基本」というか、理論的にはそうなるでしょう。
しかし、「後産」が「下りざる」のであるから、「実」である可能性もあります。
降りなければオ血となり、熱を持って実してくることも予想される…。
そうなると、「大実」の可能性もあり、治療は「大瀉」なるわけです。
さて、「基本」とか「概念的には」などと、実際の患者さんの状態とが矛盾する場合、どちらを取ればいいかという問題が出てきます。
「基本的」には、「患者さんの状態」を優先すべきです。
しかし、「基本と、患者さんの状態が矛盾する」というのも、ひとつの情報・治療のヒントです。
結論的には、「基本にしたがってもよし、患者さんの状態にしたがってもよし」となるのですが、ま~、悩んで、その時その時で判断し、結果を見てから喜んだり、反省したりして下さい。
最後の「徹腹」は、背部から鍼をさし、腹部へと影響を及ぼすために使います。
●湯液について
『漢方養生談』を見てみます。
婦人科疾患にも、色々ありますが、「血の道(更年期障害)」にしぼって見てみます。
湯液の項目だけあげると、柴胡桂枝湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、大柴胡湯、桃核承気湯、黄連湯、甘草瀉心湯、当帰芍薬散、甘麦大棗湯、八味丸です。
●季肋部のつかえ・胸脇苦満タイプ
この中で、柴胡桂枝湯、柴胡加竜骨牡蠣湯、大柴胡湯は、いわゆる「柴胡剤」です。
柴胡剤は、季肋部のつかえに使う湯液ですが、季肋部のつかえの原因は、子宮にあります。
「血」の症状があまり見られず、季肋部のつかえが主な症状である婦人に使います。
柴胡桂枝湯は、応用範囲が広い薬の一つ。
胸脇苦満があり、(病によって)少し元気が無くなった時は、何の病気でも使える湯液です。
よくよく考えれば、太陽病と少陽病の中間の薬方なので、広くてあたり前か…。
さらに、「桂枝湯類」と「柴胡剤」の間の薬方と考えれば、さらに応用範囲は広がる。
柴胡加竜骨牡蠣湯は、精神的にワーッとなっている時、スーっと下げてくれるような働きがあります。
西洋薬の精神安定剤は、ワーッと上って来たものを、上からぶん殴るようにして押さえつけるイメージですが、柴胡加竜骨牡蠣湯は、ワーッと上っていくものを下からつかんでひっぱり下げてくれる様なイメージですかね。
大柴胡湯は、柴胡証の際(きわ)。
めちゃくちゃ激しい症状に使う湯液。
「瀉下」の意味合いが強い。
「大瀉」です。
桃核承気湯、当帰芍薬散は、婦人科疾患でよくつかわれる薬です。
この項目にはありませんが、桂枝茯苓丸や加味逍遥散も良くつかわれる湯液ですので、後で見て行きます。
●胸のあたりでざわざわ
黄連湯は、黄連、甘草、乾姜、人参、桂枝、大棗、半夏。
黄連が君薬。黄連は、胸中の煩季を主治する。熱を瀉し、充血を去り、心下のつかえ、下痢を治すとある。
甘草瀉心湯は、半夏瀉心湯増甘草。半夏瀉心湯は、半夏、黄ゴン、甘草、大棗、人参、黄連、乾姜。これに、甘草を加える(増量する)。
甘草は急迫を主治する。半夏は、悪心して嘔吐するを主治す。かねて胃内の停水。腹中雷鳴、咽喉の腫痛、咳のでるものを治す。
甘麦大棗湯は、読んで字のごとく、甘草、大棗、小麦。
甘草は急迫を主治する。大棗は、牽引急迫を主治するが、胸脇の引痛、咳逆、上気、ヒステリー発作、腹痛、煩躁などを治す。小麦は、煩を除き、渇を止め、腹中の気を養う。
以上三つ見てきましたが、この三方は、胸のあたりでザワザワしたり、急に攻めのぼってくる「何か」を治めたりする湯液となります。
●虚証タイプ
八味丸(八味地黄丸)は、元気が衰(おとろ)えた虚証タイプの更年期障害に用います。
●代表的な婦人科疾患の湯液
現在、よく医療現場で使われる、代表的な婦人科疾患の湯液を見て送ます。
もちろん、この四つ以外にも、使われる湯液はたくさんあります。
桃核承気湯 桃仁(血毒)/桂枝(上衝)/大黄(大実瀉下)/芒消(実を瀉す)/甘草(急迫)
※ 桃核承気湯は、大実を瀉下する湯液。
桂枝茯苓丸 桂枝(上衝)/茯苓(利水)/牡丹皮(血熱)/桃仁(血毒)/芍薬(血脈)
※ 桂枝茯苓丸は、血のからんだ諸病。
病状は、実の傾向にある。
当帰芍薬散 当帰(血を補う)/芍薬(血脈)/茯苓(利水)/白朮(利水)/沢瀉(めまい渇=水)/川?(血毒)
※ 当帰芍薬散は、血と利水の薬。
血を補うのでやや虚証(中間~虚証)の方に用いる。
加味逍遥散 当帰(血を補う)/芍薬(血脈)/柴胡(胸脇部の邪)/白朮(利水)/茯苓(利水)/生姜(嘔)/薄荷は外感風熱=感冒・上気道炎などに用いる/牡丹皮(血熱)
※ 加味逍遥散は、桂枝茯苓丸にも当帰芍薬散にも似ている薬。
精神不安、不眠、のぼせ等がある場合に用いられることが多い。
●湯液に関して「結論」というか、「一番大切」なこと
さて、色々と湯液に関して述べてきましたが、結論というか、一番大切なことを書いておきます。
色々書いてきましたが、実際のところ、漢方薬は、
「飲んでみないと、分からない」
というのが、結論です。
いくら、条文上、「この処方が、私の身体にぴったりだわ!」と思って飲んだとしても、実際、自分の身体にぴったり合うとは限らない、ということです。
条文は、条文。
条文は、目安というか、目印くらいに考えた方が良いでしょう。
つまり、加味逍遥散を例として出すならば、更年期障害で精神不安、不眠、のぼせ等がある場合は、「加味逍遥散を飲みなさい」ではなく、「加味逍遥散を、ためしに飲んでみたらいいんじゃないですか」というくらいに、取らえておいた方がいい。
2週間ほど加味逍遥散を飲んでみて、「あぁ、これは私に良く効くわ」と思えば、そのまま飲み続ければ良いし、「あれ、なんか、私には合わないような気がするわ…」と思えば、違う処方に変えてみて、また、2週間ほど様子を見る、という飲み方が良いでしょう。
可能なら、色々な漢方薬をずらーっと並べて、ちょっとずつペロペロなめさせてもらって、一番おいしく感じた漢方薬、飲むのに苦痛を感じなかった漢方薬が、一番あなたの身体に合っている漢方薬です。
まー、ペロペロなめさせてくれるところは皆無ですから、条文上あっている漢方薬を2週間飲んでみて、判断するしかありませんけどね。
あわないと思ったら、コロコロ変えてください。
最後に
さて、湯液に関して色々述べてきましたが、結論として言いたかったことは、更年期障害にも、いろいろなタイプの患者さんがいるということです。
「子宮」だけに目を向けていても、色々な症状に対応できませんし、
「いろいろな症状」にだけ目を向けていても、根本治療にはなりません。
私の場合は、「根本治療6~7割、対症療法4~3割」という感じでしょうか。
この割合は、鍼灸師一人一人が決めればいいですし、患者さんが何を望むかによっても違ってきます。
鍼灸師が望む、「理想の治療とは何か?」という明確なビジョン。
鍼灸院に訪れる患者さんの「こういう治療をしてほしい!」という願い。
その中間あたりを狙えれば、良いですよね。