膝の痛み
お灸がよく効いた患者さんの症例。
患者/80歳代前半、女性。
主訴/膝が痛くて受診。
症状/
整形外科にて、「膝関節症」と診断され、足の水を抜いたり、痛み止めの注射等を施される。
痛みが軽い時はシップや使い捨てカイロ、もう少しつらくなると鍼やお灸、立てないくらいつらくなると、整形外科医に痛み止めの注射を打ってもらうなど、ご自分で痛みのコントロールをされていた。
東洋医学的 四診(所見)
脈診/脈はこれといって悪くない。高齢でいろいろ悪いだろうに、予想外にいい脈をしている。
舌診/舌苔はやや黄色。脈に反してこちらは良くない。
腹診/下焦の「虚・寒」が顕著。
触診/両膝とも、膝眼穴を中心に熱を持っている。
東洋医学的な概念的理解(診断)
脈診では、高齢のわりに、良い脈をしている。西洋薬の関係で、「見かけ上、脈が良く見える場合が有る」という事なので、おそらくそうだろうと思います。舌と腹を見れば、あまり良い状態ではない事がうかがえます。
舌診では、病が奥深くに存在することが暗示されています。
腹診では、「虚・寒」が顕著で、ひざの痛みが、ただ単なるひざの部分的疾患ではなく、また、一時的な物理的な要因(外傷など)によるものではない事を示唆している。東洋医学的な「脚気」である事を示している。
治療と経過
初診/某年10月15日
「鍼はあまり好きではない」とのことなので、お灸を中心に施術。鍼も気持ちいいのにね~。
治療で使う主な施灸点は以下。
①腹部 天枢(足の陽明胃経)、大巨(足の陽明胃経)、石門(任脈経)を中心に、「虚・寒」が強いところに。
②膝部 膝眼(経外奇穴)を中心に、曲泉(足の厥陰肝経)、陰陵泉(足の太陰脾経)など、症状にあわせて施灸。
治療直後/感想等
お灸をしたあとは膝もしっかりするようで、来院時はよろよろとこけそうな歩き方をしていたのに、帰る時はすっすっと歩けるようになる。
ただ、ご自分で歩いて来院できないので、治療に連れてくる息子さんの仕事の関係で、週1回しか来院できず、「もう少し来れたらね~」と、話していた。
当院は、往診治療もしているのに、かたくなに往診は断るのを不思議に思っていた。(後述する)
第二診/10月22日
治療は「第一診」に同じ。
第三診/10月29日
治療は「第一診」に同じ。
第四診/11月5日
治療は「第一診」に同じ。
第五診/11月12日
治療は「第一診」に同じ。
この後、ほぼ正確に週一回のペースで来院されていた。
約半年ほど、ひざの状態も良い日が続いたが、風邪をひいて身体を壊され、「妹さん夫婦の世話になる」と言って、大阪を離れられた。治療も中止となった。
近かったら往診も出来たのだが、近畿を離れられては往診も出来ない。
感想
この患者さんは、80歳代とは思えないくらい、頭もはっきりしている方で、口調はおっとりしているものの、はきはきとものを言う方でした。
「膝さえ痛くなかったら、どこも悪ない」と言い、「若いころ、むちゃしたからな~」と、若いころしていた行商の話などをうれしそうに話していた。
ある時、「せんねん灸みたいなやつでいいから、自宅でもしてや~」といつも言っていたが、「そうですね~」とは言うものの、まったくしようとしなかった。
一度ボソッと、「お嫁さんが、いい顔しないから・・・」と言ったことがあり、不思議に思った。
いつもはまわりの人に、「うちの嫁は、いい嫁だ」と話していたのに、意外な言葉だったからだ。
おそらく、往診を断り続けたのも、このあたりの理由からだろう…。
「いろいろ有るんやね~」と患者さんに声をかけると、「そうや、いろいろあるんやで・・・」と言っていた。