乾癬性紅皮症の鍼灸治療

乾癬性紅皮症

患者

 G・R様。30歳代後半。男性。

主な症状

 来院の理由(主訴)は、目のかすみ、視力低下、口がかわく、息が切れる。

症状

 1か月ほど前から、目のかすみ、視力低下、口がかわく、息が切れるなどの症状がではじめ、糖尿病を疑っている(医療機関への受診はされていない)。「糖尿病になっているんではないか」という強い「恐怖感がある」との事。

 その他、皮膚がかゆく、痛い。夜眠れない。心に余裕がない。左の仙腸関節および左の腎臓部(左の腰部)に違和感。左の脇腹に違和感(「肝臓ですか?」と私に聞く。正解!)。

乾癬に関しての問診

 十五~六年前に、「尋常性感染」を発症。その後、それが全身に広がり、「乾癬性紅皮症」に移行する。
 調理師という仕事上、皮膚の炎症が強くなると解雇されることが多く、就職と退職、療養を三、四ヶ月ごとに繰り返す日々を送る。今回も、二カ月ほど前に解雇され、現在療養中。
 仕事上のストレス(主に売り上げなどの問題で、オーナーからクレームを受ける)がきつくなると、皮膚の炎症がきつくなり、部下にあたり散らすようになる。その当たり散らした行為がまたストレスとなって皮膚の症状がひどくなり、やがては全身に広がり、辞めざるを得なくなる。

 皮膚に熱を持った感じが強く、大腿後面は体重がかかり、布団に押し付けられるのもつらくなるくらいの感じを受けているが、身体の芯は冷えている感じが強いと言う。
 一か月くらい前の「最悪の状態」からは、皮膚の状態は少しましにはなった。大食(ストレス性)と便秘が気になる、と言う。


東洋医学的 四診

脈診/脈の状態は沈、数。
   力が無い(弱?)。
   脈管も、力が無い。
舌診/白苔が厚い。
腹診/胸の奥のザワザワ感は、非常に強い。「邪熱」と胸脇苦満あり。
   臍の左斜め上の奥の方に、やや熱あり。
   下焦の奥に「寒」。(下の図、左参照)
    ※ 全身の皮膚が炎症を起こしているのだから、どの場所の皮膚も、表面は熱を持っている。
触診/全身の皮膚が炎症を起こしているので、どの場所の皮膚も熱を持っていて熱い。
   胸に白色の脱色。乾癬の症状が軽くなってくると、脱色の範囲が広くなり、正常な皮膚に置き換わる。
   股間部、大腿後面のかゆみが強い。
   下肢全面部、皮膚の炎症がきつい。(下の図、右参照)

東洋医学的な、概念的理解

 脈診では、かなり「陰病」の印象を受けるが、全体から受ける感じは、そうでもない。薬のかげんか?

 舌診では、「少陽病」を連想させる。

 腹診では、 胸の奥のザワザワ感が非常に強い。かなりの「ストレス」を抱え込んでいることをうかがい知ることができる。
 胸脇部にある、「邪熱」と胸脇苦満により、湯液では「少陽病」が連想させる。また、位置的には、臓器である肝臓のある場所なので、肝機能の亢進(または逆に低下)が予想される。「胸の奥のザワザワ感」とあわせて、この患者さんは、「ストレスを受けると肝臓に来るタイプ」の患者さんである事が解る。
 臍の左斜め上の奥の方に、やや熱あり。この部分は、臓器である「すい臓の頭」がある所ではあるが、それほど熱を持っているわけでもないので、患者さんが心配していられる「糖尿病」の心配は、今すぐにはないであろうことが予想される。しかし、万が一の事があるので、医療機関での受診を勧める。
 下腹部の下焦の奥に「寒」が存在する。それもかなりきつい感じがする。冷え方はそうでもなく、普通の「寒」であるように感じたが、「ひつこそう」な印象を受ける。

 触診では、全身の皮膚が炎症を起こしているのだから、どの場所の皮膚も、表面は熱を持っている。


西洋医学的理解

 『メルクマニュアル医師向け日本語版』には、乾癬とは、「乾燥し,境界がはっきりしており,銀色のいろいろな大きさの落屑を伴った丘疹と斑で特徴づけられる,ありふれた慢性の再発性の疾患」とあります。
 しかし、乾癬性紅皮症になると、「治療に対して抵抗性がある。皮膚全体が赤くなり,細かい落屑で覆われる(略),全身性衰弱につながり,入院が必要になる」とあり、単なる乾癬ではなく、重篤な疾患であることがわかります。
 また、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』では、「尋常性乾癬が不適当な外用療法によって急性あるいは慢性に増悪し、全身へ拡大するが乾癬特有の皮疹が残っていたり、健康な皮膚が見られたりする。このタイプの乾癬性紅皮症は予後良好であるが、副腎皮質ステロイド薬の全身投与による誘発型や、急性汎発性膿疱性乾癬・関節症性乾癬からの移行型では発熱や全身倦怠感といった全身症状や皮疹が強く現れ、治療に抵抗する」とあります。
 ここでは、尋常性乾癬から乾癬性紅皮症への移行の原因を、「不適当な外用療法」としていますが、もちろん原因はそれだけではなく、その患者さんの体質や心身の状態にも左右されます。 

 まー、お医者さんも、「不適当な治療をしてやろう」と思って治療しているわけではありませんので、そう決めつけるのも、気の毒な気もしますが…。


治療と経過

初診 某年7月下旬

 治療は「法」に従う。
 ストレスが強いので、手の少陰心経をまず使います。その裏の、手の太陽小腸経も鍼をします。もちろん、「肝臓にくるタイプ」の患者さんなので、右腕の心経・小腸経の治療が要(かなめ)となります。
 皮膚表面が熱いので、熱をさばく鍼は十分行うが、それだけではだめです。
 必ず下焦の「寒」に対する治療をしておかないと、一時皮膚症状がましになっても、すぐに悪化します。
 術を行う者は、皮膚表面の症状に一喜一憂したり、右往左往しない。

 治療直後  左の太渓穴に鍼をした時、「左の仙腸関節に来ます。気持ちいいですね~」とおっしゃっていた。

 第二診の時の話では、「皮膚の症状はあまり変わらないが、左の仙骨のところがかなり緩んだ気がする。気持ちよかったので、またやってほしい」との事。


第二診 第1診の1週間後

 皮膚症状その他、大きな変化はなし。
 以前は二時間おきに、かゆみや痛みで起こされていたが、「三~四時間くらい、少し眠れるようになった」と言う。
 治療は「第一診」に同じ。
 「太谿穴の鍼が気持ちよかった。左の仙骨のところがかなり緩んだ気がする。」との事。
 足の少陰腎経→ 下焦の充実→ 仙骨の緩み、かな~?

第三診 第2診の2週間後

 当院がお盆休みだったため、治療が二週間あいてしまったので心配したが、胸の白脱部分が少し広くなり、正常な皮膚が見えてきた。
 治療は「第一診」に同じ。

第四診 第3診の1週間後

 急激に皮膚の症状が消える。患者さん本人も、術者である私もびっくりする。
 一番皮膚症状のきつかった下肢前面も、ひっかき傷がかさぶたになり、その下には新しい皮膚が見える。
 胸の白脱部分も広くなり、正常な皮膚が見えてくる。
 かゆみで起こされる事もなく、「八時間寝られた」との事。
 
第五診 第4診の1週間後
 徐々に心を開いてくれるようになる。仕事上のストレスもあるが、心の奥底の「根っこ」のところに、大きな重石として乗っかっているのが、「父親の存在」である事を、患者さん自身が理解する。
 治療は「第一診」に同じ。
 身体症状の改善が信頼を産み、こころの奥底のストレスとか、トラウマを話してくれるようになる、相乗効果を生む。

第六診 第5診の1週間後

 治療は「第一診」に同じ。

第七診 第6診の1週間後

 治療は「第一診」に同じ。

第八診 第7診の1週間後

 この頃になると、劇的な症状の改善は見られなくなり、小休止の状態になる。
 この時期に治療を打ち切ると、また症状が元に戻る事になる。がんばって通ってほしい。
 治療は「第一診」に同じ。

第九診 第8診の1週間後

 治療は「第一診」に同じ。

 理由が解らないが、この第9診以降、ぱったり来なくなってしまった。


感想

 この患者さんは、だいたい週1回の来院でしたが、それだけでこれほどの、劇的な症状の改善が見られたわけではありません。

 当院では、下焦の「寒」に対する治療として、自宅でも毎日温熱療法(商品名は「レンジでゆたぽん」)をするようにすすめました。
 本来は、自宅でも「箱灸」をすすめたかったのですが、煙がきつすぎると言うので、ゆたぽんにしました。
 また、紹介した漢方薬局(鍼灸院を併設)で、刺絡療法(井穴刺絡)もすすめられ、毎日、自宅で刺絡治療されていました。

 これほど症状の重篤な患者さんは、「鍼灸院に頼る」とか、「漢方に頼る」とかいう気持では、絶対に治りません。
 「自分でも、できることはする」という気持でなければ、治りません。
 この患者さんの場合、週1回の鍼灸治療、漢方薬治療、自宅での刺絡治療、ゆたぽんのよる温熱治療など、複合的におこった結果として、第四診時の劇的な効果を生んだのです。

 さきほど、第9診以降、来なくなったと書きましたが、この患者さん、3年後にふらっと治療院に現れ、「あの時は、劇的に症状が改善され、もう私には治療は必要ないと思い込んでしまい、治療を中断しました。が、甘かったです。また、治療してほしい」と治療を欲しました。
 しかし、症状がまた改善されると、また来なくなります。
 これを、永遠と繰り返します。
 こちらが、くちすっぱく言っても、だめでした。
 ほんと、人間って、どうしようもないですね。笑笑