不眠症(総論)
まずは、「不眠症」の説明から。
不眠の症状は、以下の3つに分類されます(『家庭の医学』から)。
症状(1) 入眠障害(にゅうみんしょうがい)
寝つきの悪いタイプで、眠ろうとすればするほど眠れなくなるが、いったん入眠すると朝まで眠れるというもので、不眠症の中では一番多くみられます。
症状(2) 熟眠障害(じゅくみんしょうがい)
眠りが浅く、すぐに目が覚める、夢ばかりみて眠った気がしないと訴えるタイプで、老人の不眠や慢性的なストレス状態で多くみられます。
症状(3) 早朝覚醒(そうちょうかくせい)
朝早く目が覚め、その後眠れないというタイプで、高齢者に多い傾向があります。ただし就眠が早すぎるだけで全体の睡眠量は足りているということもあります。
不眠症の診断
睡眠障害の分類にはいろいろありますが、わかりやすく実用的なものとして米国睡眠障害センター協会(ASDC)の分類があります。この分類に従って、以下に説明します。
診断(1) 精神生理学的要因による不眠
これは最も一般的に多くみられる不眠であり、時差のある地域への飛行機旅行や精神的ショック、外科的手術のための入院など急激なストレス状況に対する一時的な反応として現れるものです。
診断(2) 精神障害に伴う不眠症
心療内科、精神科領域では最も多くみられる不眠症で、神経症、うつ病・うつ状態、あるいはその他の精神疾患の部分症状として現れるものです。
診断(3) 薬物使用やアルコール飲酒による不眠
慢性的な薬物依存やアルコール依存によるもので、とくにアルコールは最初はナイトキャップとして飲んでいたのが、だんだん飲まないと眠れなくなり、次第に飲酒量が増え、寝つきはよいが、すぐに覚めてしまい、また飲むという悪循環を繰り返すようになります。
診断(4) 身体疾患、中毒性疾患などによる不眠
夜間の不整脈や呼吸困難、咳、喘息(ぜんそく)あるいは発熱やかゆみなどの身体的苦痛や不快感のために不眠になることがあるので、この場合は内科的診断と治療が必要です。その他、まれなものとして、肥満による睡眠時無呼吸症候群や特発性周期性四肢運動(夜間ミオクローヌス)などで不眠(中途覚醒)となることがあります。
以上、『家庭の医学』から引用しました。
「症状の分類」については、この通りで良いでしょう。
しかし、分類し、パターン化したからといって、鍼灸の治療ではあまり意味を持ちません。患者さんが訴える「具体的な症状」が、どのように変化し、どのように改善されていったかを、患者さんとともに認識して行くことが重要です。
「悩みの共有」と書いてしまうと大げさですが、鍼灸師と患者さんの認識を一致させつつ、治療に当たりたいものです。
しかしながら我々鍼灸師は、「寝むれた・寝むれない」に一喜一憂しないで、冷静に判断し、何が改善し、何がまだ症状として残っているのかを見つめる必要があります。
「診断」については、西洋医学的な分類としてはそうなんでしょうが、「臨床」に近いものとそうでないものが混合されて書かれていますので、かえって分かりにくいかもしれません。
「臨床」にしぼって考え見ます。
まず、「診断(1)」の「時差のある地域への飛行機旅行」は、時差が解消されれば無くなりますので、臨床上重要ではありません。
臨床上重要なのは、「精神的ショック、入院など急激なストレス状況に対する一時的な反応」の方です。しかしこれも「一時的なもの」であるなら、臨床上は問題ありません。
一時的なものにならず、長期化し、不眠症におちいった方が治療対象になります。
つぎに、「診断(2)」。「心療内科、精神科領域では最も多くみられる不眠症で、神経症、うつ病・うつ状態、あるいはその他の精神疾患の部分症状として現れるもの」は、臨床上多くみられる不眠症です。
東洋医学では、「心身一如(しんしにちにょ)」といって、心と身体を同一のものとしてとらえます。
ココロの働きが、うまくいかずに、身体の一部である臓器である「脳」の働きが障害され、不眠症になります。
ココロと身体、同時にいやしてこその東洋医学です。
つぎに、「診断(3)」。薬物依存の患者様に、私はまだ臨床上お会いしたことはありません。しかし、アメリカの薬物依存の方のケアを行っているセンターで、針治療を取り入れているという事をテレビでやっていました。耳鍼のようなこともやっていました。チャレンジはしてみたいですよね。
アルコール依存については、上の「心療内科、精神科領域」と内容がリンクすることも多く、高い効果が期待されます。問題は、アルコールにあるのではなく、「依存せざるを得ないココロのありよう」ですので、ココロを落ち着かせ、依存しなくても生活できるような治療とアドバイスが必要です。
とはいえ、アルコール依存症は本人さんが「治したい!」と思わないか入り、何をしても無駄なような気がします。
周りの人間(家族や仲間)の説得ももちろん大切ですが、結局は、本人さんが自分の状態を認識し、改善したいと思えるかどうかです。
最後に、「診断(4)」です。診断4は、原因となる疾患があって、それに伴う不眠症ですから、原因となっている疾患を、しっかり治療することが大切です。原因が無くなれば、結果としての不眠症もなくなります。
ただ、喘息などもそうですが、病気になると、「このまま死ぬんではないだろうか」という不安にさいなまれ、不眠症となることが多々あります。「診断1」の長期化したものですね。もっと長期化すると、うつ病みたいになったしまいますから、これは「診断2」になります。
色々書きましたが、複雑になっただけかもしれません。すみませんでした。
不眠症の各論
人間は不眠症になる生き物です。
人間という生物の体内時計(生活周期)は、24時間ではなく、25時間周期になっているそうです。
外から光が入らない状況で、時計の無い部屋で、朝起きて電気をつけ活動し、寝る時間になったと思ったら電気を消して寝るという生活を続けさせた実験があるそうです。
すると被験者は、生活リズムが徐々に、24時間周期ではなく、25時間周期に伸びて行ったそうです。
ニワトリでも、同じような実験をすると、25時間周期に卵を産み始めたそうですので、もしかすると、生物全般が25時間周期になっているのかもしれません。
なぜそうなのかは、知りません。
つまり、われわれ人間は、朝にのぼる太陽による刺激や、目覚まし時計の「ジリリリリー!」というけたたましい音の刺激によって、無理やり24時間周期に「修正」されているだけであって、本来は、睡眠がくるい、眠れなくなったり、日中に眠たくなったりする生き物なのです。
不眠症を訴えられる方の中に、何か眠られない事が「罪悪」であるかのように感じてられる方もおられますが、安心して下さい。正常な反応です。毎朝決まった時間に起き、毎晩決まった時間に寝られる人の方が、異常なのです。
不眠症は特別なことではなく、誰もがかかる病なのです。
寝なくても、大丈夫です。
ベッドの上でゴロゴロして下さい。
不眠症は特別なことではなく、誰もがかかる病なのです。
たとえ、寝られなくなったとしても、目をつむって横になっているだけで、「睡眠の7割の効果がある」と言われています。
不眠症の患者さんで一番多いパターンは、眠られなくなってくると、「疲れた方が眠れるだろう」と、テレビを見て目を疲れさせようとしたり、夜走りに行ったりと行動してしまい、それが刺激になって、逆に眠れなくなるケースです。
そんなことはせず、眠る時間になったら寝間に入り、好きな音楽でも聞きながら、暗い部屋であっちにゴロゴロ、こっちにゴロゴロしていれば良いのです。
まったく一睡もできなくても、理論上は、10時間ゴロゴロしていれば、7時間ぐっすり寝たのと同じ効果になるのです。
これは朗報です。不眠症の方は、すぐ今晩から実践しましょう。
この事実に、どれだけの不眠症の方のココロが救われることでしょう。
以前、「夜になればなるほど、寝ようと思えば思うほど、『明日、これをやらなあかん』とか、『これを伝えたか、確認を取らなあかん』とか気になって、眠れなくなる」という方がいました。
その方は、小さな懐中電灯とメモ用紙を寝間に持って入り、色々頭に浮かぶことを、「○○、明日確認」、「××、明日チェック」と次から次に書いて、今晩は思い悩まずに、ぜーんぶ明日にまわすように心掛けたそうです。
そうすることで、仕事上でどんな問題が起こっても、日中にイライラする事が出て来ても、「ハイ、明日。ハイ、明日。今日は寝る」と、不眠におちいらなくなったそうです。
とにかく、眠れないからといって、「寝よう寝よう」と、あせりだすと眠れなくなりますので、「ゴロゴロしていれば、寝たのと同じ効果がある」、「ぜんぶ、明日やる。今日は、寝る」と、ゆったりした気持ちでお過ごしください。
不眠からくる不安、不安からくる不眠。
とはいうものの、不眠症から抜け出せないでいる方が、たくさんいることも事実です。それはなぜでしょうか?
それは、不眠から不安感を感じ、その不安から不眠におちいるという悪循環を断ち切れないでいるからです。
良く眠れる人は、不眠症の方の話を聞くと、「そんなことどうでも良いから、寝たら良いのに」と思われる方もおられますが、それが出来ないから不眠症になっているのです。
不眠治療は、不安を取る治療だともいえます。
「薬」に対する個人的な見解。
臨床を続けていると、よく聞かれる質問があります。それは、
「導眠剤をやめたいが、どう思うか?」です。
「睡眠薬、精神安定剤のたぐいは毒だから、今すぐ中止しなさい」などと言う、無責任な鍼灸師もいますが、私はすぐにそういう結論には達しません。
もちろん、「飲まなくても良いなら、飲まないに越したことはない、非常に危険な薬物です」という話はさせてもらいます。
しかし、減薬・断薬によるショック症状も無視して、いきなり「やめろ」とは言えません。
そこは、患者さんと相談しながら、徐々に減らしていく必要があります。
もちろん、我々が減薬・断薬の指示はできませんので、あくまでも、患者さんと相談しながら、医師の了解を得ながらの作業にはなります。
まず考慮しなくてはならないのは、患者さんが働いているかどうかです。
患者さんが働いている場合は、働いてお金を稼ぐことが基本ですので、「眠れる」という事を優先させるべきだと考えています。
もちろん、ただ「眠れる」という事を優先して、バンバンきつい薬を飲むのはおすすめしません。
薬は飲みつつも、鍼灸治療や睡眠のアドバイス、患者さんの眠る努力等を応援し、サポートすることによって、お薬が無くても眠れることを目指します。
患者さんが働いていない場合は、私個人としては、「寝なくて良いやん♪」というスタンスを取っています。
夜眠れなかったら、昼に寝れば良いだけであって、何の問題もありません。
できる限りの減薬を目指します。
本で読んだだけの知識ですが、ある精神科医は、患者さんにまず「ニッパー」を買わせるそうです。
ニッパーとは、物をはさんで砕く、ハサミとペンチの中間のような工具です。
このニッパーで何をさせるかというと、お薬を砕かせるそうです。
それで、2分の1錠、4分の1錠、8分の1錠、16分の1錠と、薬を細かくしていき、どんどん減薬させるそうです。
症状がぶり返せば、また量を増やし、症状が落ち着けば、量を減らす…。
患者さんにどの量の薬が本当に必要か、患者さんと相談しながら決めていくそうです。
この方法で、私の治療院の患者さんでも、減薬・断薬に成功する患者さんが多くいます。
ぜひ、参考にしてみてください。
精神薬は、飲まなくて良いなら、飲まない方が良い、危険な薬物です。
しかし、精神の安定や睡眠には、必要な時もあります。
自分に今、どのくらいの量のお薬が必要かを知り、減薬・断薬を目指しましょう。
薬の量に一喜一憂せずに、長い目で見て、身体とココロが、良い方に向かっているかどうか、良い睡眠がとれているかどうかを、大切に考えましょう。
本当に患者さんの立場に立って、親身に相談にのってくれる精神科のお医者さんもたくさんおられますが、そうではない方も、たくさんおられます。
なかなかそういう医師とめぐり会えない方は、お近くの鍼灸院に、ぜひ相談してみてください。
※減薬・断薬に関しては、必ず担当主治医とご相談下さい。
※お薬の中には、ニッパーで割るなど、粉砕するのに適さないお薬もありますので、割って飲む前に、医師・薬剤師に必ずご相談ください。