便秘(熱性便秘)
患者
N・M 様。70歳代後半。女性。
主な症状(主訴)
便秘(熱性便秘)。
症状(現病歴)
便秘がひどい。
下剤(酸化マグネシウム)をのまないと、便が出ない。
ずっと便の調子は良くなかったが、この一年ほど、特にひどい。
その他の持病など(既往歴)
小便の出も悪い。
痔も有り。
東洋医学的 四診(所見)
脈診/全体的に力は無い
左の脈はおさえると、グチャグチャとつぶれる感じ。
渋って、なかなか来ないイメージ。
舌診/舌苔は、薄い黄苔。
腹診/下の図参照。
左の横腹、臍の横にコブの様な塊をふれる。熱感も感じるが、「邪熱」という程の激しさはない。
下焦は冷たいが、「寒」という程ではない。手術跡あり。
触診/足は矍鑠(かくしゃく)としている。。
東洋医学的な概念的理解(診断)
全体的に診て、陰的な印象と陽的な印象が混在する患者さん。
脈診では、弱っている(陰)の印像を受ける。
舌診では、少し病が奥に入って行っているのがわかる。
腹診では、陰と陽が混在。
触診では、足の先が少し冷えている感じはしたが、足腰は弱っていない。
とりあえず、横腹のカタマリがとれれば、便通も良くなるだろうという予測をたてて、治療を開始する(下記「感想」を参照)。
治療と経過
初診 某年 6月中旬
治療は「法」に従う(治療法は下記「感想」を参照)。
治療直後(感想等) 治療直後に目立った変化はない。
第二診 初診から3日後
「便に変化はない」と言う。
治療は「第一診」に同じ。
第三診 第2診から5日後
腹部のカタマリが劇的にやわらかくなっている。
患者さんも、第二診の翌日、「ビックリする程の量の便が出て、すっきりした」と喜んでいた。
コブのような塊は少し小さくなり、柔らかさは劇的に柔らかくなる。
邪熱もひく。
治療は「第一診」に同じ。
第四診 第3診から3日後
治療は「第一診」に同じ。
第五診 第4診から4日後
治療は「第一診」に同じ。
この後、時々思い出したように、便秘がつらくなると1~2回来て来なくなり、また1~2回来て来なくなることを繰り返しながら、約一年ほど鍼と灸の治療を続けるが、いつの頃からか、来院しなくなったので、一応、「治癒」としてカルテを閉じた。
感想(考察)
便秘には2種類あって、一つは「熱性便秘」、もう一つは「寒性便秘」です。
熱性便秘は、熱のために便が硬くなって、便が出にくくなるもの。
寒性便秘は、腹部が冷え衰え、便を出す力が無いために、便が出にくくなるものを言います。
この患者さんの場合、「熱」の情報と「寒」の情報が同時にあり、1回目の治療では、それを見極めることができませんでした。
しかしながら、東洋医学、特に鍼灸の場合は、それが明確に分からなくても、治療をすすめるなかで明らかになったり、それがわからなくて治療しても、治癒に導くことが可能だったりするという利点があります。
これは西洋医学には無い発想です。
原因をとことん突き詰めなければ治療を開始できない西洋医学に対し、良く分からなくても、とりあえず治療さえ始めれば、「なんとかなる」のが東洋医学です。
もちろん、つきつめた方が良いことは良いですが…。
この患者さんの場合、「コブのような塊が小さくなった」、「(コブの)柔らかさが劇的に柔らかくなった」、「邪気と熱感がひいた」ことと同時に、つらい便秘の症状が消えたことにより、「熱性便秘だった」と云うことがわかりましたが、治療開始時も、治療中も、熱性か寒性かの判断はつきませんでした。
それでも治る、鍼灸治療の素晴らしさよ!
偉いのは私ではなく、鍼・灸という治療法そのものです。
これ以降は、専門的な話をします。
横田観風著/『鍼道発秘講義』には、20章の「大便」の章にこうあります。
『若し元気衰え、大便久しく下らば、気海を取るべし。又、徹腹を深く刺して、止(とど)むるに妙有り。大便結(けっ)せば、大腸の兪、並びに承山を刺して、効有り。』
「若し元気衰え、大便久しく下らば」ですから、「寒性便秘」です。
「気海を取るべし。又、徹腹を深く刺して、止むるに妙有り」とあり、「止むるに妙有り」ですから、「補法」です。「大いに補する鍼」ですね。
つぎに、熱性便秘の施術方です。
「大便結せば、大腸の兪、並びに承山を刺して、効有り」です。大腸兪穴、承山穴です。鍼灸師にとっては、常識の範囲ですが、「どのように刺すのか」は書いてはいません。
「治るように刺す」としか書けませんが、治るように刺してあげて下さい。