膀胱炎
基本情報
I・R 様。30歳代後半。女性。
主な症状
おしっこをすると、痛みがある(→後に泌尿器科で、「膀胱炎」と診断される)。
症状
先週の月曜日(8日前)、おしっこをすると痛みがあることに気づく。
ヒリヒリするような感じ。
翌火曜日、頻繁におしっこに行きたくなるが、量は少ない。
痛み(+)。
残尿感(++)。
便秘は(+)だがこれはいつも通り。
発熱(-)。
のどの渇き(-)。
東洋医学的 四診
脈診/全体的には浮でも沈でもないが、左の寸口のみ変に浮いている。
脈には力がないが、脈管の形がはっきりわかる。緊張しているのか?
舌診/舌体は細く痩せている。色はやや紅色。ぬめって水っぽい。舌苔は無し。
腹診/上腹部に熱感。やや胸脇苦満気味。スジバリを触れる。
下焦に「邪熱」あり。熱い感じとビリビリ来る感じがある。
全体的に痩せて力なく、肌にもハリは無い。
触診/のど付近の熱はなし。
東洋医学的な概念的理解
全体的に、陰的な印象と陽的な印象が混在しているが、新しいもの(症状)と古いもの(体質)に分ける必要がでてくる。
脈診では、「全体的には浮でも沈でもない」と「脈には力がない」が、もともとの体質。
「左の寸口のみ変に浮いている」、「脈管の形がはっきりわかる。緊張しているのか?」が、新しい症状。
舌診では、「舌体は細く痩せている」、「舌苔は無し」が体質。
「色はやや紅色。ぬめって水っぽい」が現在ただいまの症状。
腹診では、「全体的に痩せて力なく、肌にもハリは無い」が体質。
「上腹部に熱感。やや胸脇苦満気味。スジバリを触れる。下焦に「邪熱」あり。熱い感じとビリビリ来る感じがある」が、現在ただいまの症状。
治療と経過
初診 某年2月下旬
初診の前日に電話あり。電話の内容から判断して、柴胡桂枝湯を1包服用してもらう。
朝に来院。「あまり変化がない」との訴え。
上腹部の熱は少し引いたが、下焦の邪熱が不変なので、猪苓湯に変更。昼に1包、晩に1包服用。
鍼灸治療は下記参照。
第二診 初診の2日後
「おしっこに行きたい感じは少なくなったが、痛みは不変」との事なので、抗生物質の方が早いと判断。
泌尿器科への受診をすすめる。
朝と昼に猪苓湯を飲むように指示。
夕方、泌尿器科を受診。「膀胱炎」と診断され、抗生物質をもらう。
夕食後に抗生物質、寝る前に猪苓湯を飲むように指示。
治療は「第一診」に同じ。
第三診 第2診の1日後
食後に抗生物質、空腹時に猪苓湯を飲むように指示。
治療は「第一診」に同じ。
第四診 第3診の2日後
痛み、頻尿、残尿感が急速になくなる。
念のため、本日1日抗生物質と猪苓湯を飲むように指示し、治療を終える。
感想(鍼灸治療の基本姿勢)
一般的に「膀胱炎」の場合、実証に黄連解毒湯、中間証に猪苓湯、虚証タイプに八味地黄丸というふうに言われています。
黄連解毒湯タイプの方は泌尿器症状に加え、のぼせ、イライラ、顔面紅潮などの症状をあらわします。
猪苓湯は「中間証」となっていますが、実証から虚証まで、幅広く使えます。「膀胱炎=猪苓湯」と考えても差し支えありません。
八味地黄丸タイプの人は、冷えていて元気が無く、膀胱炎をくりかえし発症する等、まさに虚証タイプの方が飲む湯液です。その他に、耳鳴りや精力減退といった症状がみられる場合もあります。
黄連解毒湯、八味地黄丸はまた別の機会に書くとして、猪苓湯について、少し書いておきます。
猪苓湯は、猪苓(3g)、沢瀉(3g)、阿膠(3g)、滑石(3g)、茯苓(3g)からなる湯液です(含有量の割合は、ツムラを参照)。
以下、『漢方養生談(荒木正胤著)』から原料と薬効を抜粋します。(赤字は石部。)
猪苓の原料は、サルノコシカケ科のチョレイの全体。薬効は、熱を解し、渇して小便不利するものを治す。
沢瀉の原料は、オモダカ科のサジオモダカの塊根。薬効は、冒眩(めまい)を主治する。かねて、小便不利を治し、渇を止める。
阿膠の原料は、主として牛皮からとったニカワ。薬効は、強壮、滋潤、止血、鎮痛、利尿の効がある。
滑石の原料は、天然の含水珪酸マグネシウム。薬効は、尿道をなめらかにして、尿を利し、渇を止め、熱を瀉す。
茯苓の原料は、マツの根に生ずるサルノコシカケ科ブクリョウの菌核。薬効は、神経性の利水剤である。ゆえに胃内の停水。小便不利、眩暈、心悸、小便の頻数、減少、筋肉の間代性ケイレンを治す。
以上です。
猪苓湯は、上記の5つの生薬が、いわゆる「利尿剤(利水剤)」であることが特徴です。
そして、他の湯液と比べてみると、「水(水毒)」は「水(水毒)」でも、「熱」をはらんだ水毒を瀉する働きがあることが分かります。
また、「とりあえず出せばいい」というわけではなく、身体の中を滋養しつつ潤し(阿膠)、尿道をなめらかにしつつ(滑石)、「水(水毒)」をさばきます。
問題はこの「熱」のある場所です。
「熱」のある場所が主に下焦(内位)で、脈浮、発熱し、口の渇きがあるものは、猪苓湯です。
「熱」のある場所が主に中焦(裏位)で、脈洪大、汗が多く出て、胸ぐるしく、大いに口の渇くものは、白虎加人参湯です。
「熱」のある場所が主に表位で、脈浮、頭痛、発熱、悪寒、口が渇き、尿が出ないものは、五苓散を用います。
「熱」のある場所が主に陽明位(裏位+内位)で、発熱し、身体からは汗をかかずに頭から汗が出て、口が渇き、胸が苦しく、腹が張り、尿が出ないものには、茵■蒿(いんちんこう)湯を用います。
さて、この患者さんの場合は、ところどころ陰的な印象も見られますが、それはもともとの体質が表れているだけで、今回の症状とは、直接的な関係はありませんので、ここでは無視する必要が有ります。
脈診は、「左の寸口の浮」、「脈管の形がはっきりわかる。緊張している」
舌診は、「色はやや紅色。ぬめって水っぽい」
腹診は、「上腹部に熱感。やや胸脇苦満気味。スジバリを触れる。下焦に「邪熱」あり。熱い感じとビリビリ来る感じがある」
が、現在ただ今、この患者さんの表わしている症状です。
この患者さん、陰的な情報も見られますが、まだまだ病気に抗(あらが)う体力があります。
おそらく、何らかの原因(下焦の「虚・寒」)によって体力が落ち、いわゆる免疫力が低下。下口より「邪」が侵入。邪に対し、身体が防御・攻撃を開始。
そのため、尿道内で炎症がおこり、痛みが出て、残尿感を強く訴える事となった。
以上が病因と経過だと思われます。
猪苓湯証には、発熱とロ渇が症状としあるが、この患者は、発熱および口渇が「無い」となっています。
しかしながら、本人が訴えないだけで、かるい発熱と口渇は有ったのではないかと思います。
この辺は、ひとつひとつの症状にとらわれずに、総合的に判断してもらえれば良いでしょう。
患者さんの状態を把握したところで、次に鍼灸の刺法に移ります。
『鍼道発秘講義』の記述を見てみよう。
まず、十九章の「小便」。
『小便繁(しげ)きには、気海、石門を深く刺して、留むべし。又、渋り、通ぜざるには、百会、肩井、項の左右を刺して、気を漏らすべし。陰陵泉に引く事、妙なり。』
つぎに、二一章の、「淋病」。
『腎、膀胱の積熱なり。気海、中極を刺すべし。又、水道、陰包、大白に刺す。妙なり。淋病、多くは黴毒(ばいどく)より発す。委中、並びに足の指の間を刺して、血を出すべし。』
と、あります。「小便繁」は、小便が出すぎる症状なので違います。「渋り、通ぜざる」以降を参照します。
具体的には、上記の『鍼道発秘講義』の記述を参考に、臨機応変に対応します。
※ 注意 ※
今回、患者が「親戚」ということも有り、「最終的には自己責任になる」という事を十分説明した上で、漢方薬を指示していますが、医師以外のものが漢方薬を扱う事は医師法により禁じられています。もちろん鍼灸師もダメです。(薬剤師のことは、薬剤師さんに聞いて下さい。私は詳しく有りません)
みなさんは十分医師と相談のうえ、医師の指示によって漢方薬を服用して下さい。
自己判断は禁物です。