足の裏の痛み。
(謎の足の裏の痛みの症例)
患者/50才代前半、女性。
主な症状(主訴)/足の裏の痛み(左<右)。
症状(現病歴)/右の足の裏の痛みを訴えられて来院。
「今日は歩けないくらい痛い」と言うが、歩いて来られた。(笑)
「右足をグッと踏み込むと痛みが走る」と言う。
右足ほどではないが、左の足の裏も痛む。
右足のアキレス腱も痛む。足の裏が痛み出す1ヶ月ほど前から、右のアキレス腱が痛かった。
その他の持病など(既往歴)/特筆すべき事項なし。
家族歴/特筆すべき事項なし。
東洋医学的 四診(所見)
脈診/右の尺口部を沈めると、ドンドンと強く触れる。
舌診/舌体の色は、やや暗い。
舌苔は薄い白苔。白苔かどうか悩むくらいの薄さ。
舌下動脈の怒張が顕著。
腹診/右下腹部が硬い。
右下腹部の奥に、ボーっとした熱感を感じる。
下焦(下腹部)は冷えている。
触診/足は右足も左足の冷えている。
右の足の陽明胃経上のラインに、ボーっとした熱を感じる。
東洋医学的な概念的理解(診断)
脈診では、右の尺口部を沈めると、ドンドンと強く触れる事から、右の下腹部に「何か」がある事が分かる。
舌診では、舌体の色がやや暗く、舌下動脈の怒張が顕著である事から、「オ血(邪熱をもった古血/毒)」が予想される。
また、舌の苔の色が白苔である事から、病が湯液でいう少陽位にまで進んでいることが予想されるが、舌苔がまだ薄いので、病の重篤度から言えば浅い事が予想される。
腹診では、右の下腹部が硬い事、またその奥に熱感を感じる事から、何らかの滞り(おそらく、オ血の塊)が存在し、それが右足に行く神経や血管を物理的に圧迫するか、東洋医学でいう「気の流れ」を滞らせ、右足の諸症状を現したものと思われる。
オ血の関係を考えると、足の厥陰肝経・足の少陽胆経のラインを考えられるが、触診で足の陽明胃経上に熱感を確認しているので、足の太陰脾経・足の陽明胃経のラインを中心に、治療を組み立てる。
西洋医学的な理解
当院を受診される前に、近隣整形外科を受診し、レントゲン検査を受けたが「異常無し」との診断を受け、シップと痛みどめの薬を渡される。
医師は、「歩けない程の痛みが出てくるような足はしていない」と、レントゲン写真を見ながら首をかしげていたという。
東洋医学を生業(なりわい)とする者が、痛みのある所と痛みと関係の有りそうな所を触らせてもらえれば、痛みの原因はある程度言い当てることが出来るが、西洋医学には「気が滞る」という発想は無いので、「異常無し」との診断が下りやすい。
「痛みが出ているところ」=(イコール)「痛みの原因のあるところ」では、無い。

治療と経過
初診/某年1月中旬。
基本的な治療計画は、
①右足の痛み(足の裏・アキレス腱)に対して、
A・右下腹部の熱感を取る治療。
B・右下腹部の硬い感じを緩める治療。
C・足の裏・アキレス腱への直接的なアプローチ(足の陽明胃経上の熱感への対処も含む)。
②冷えに対する治療(両足が冷たく、右ほどではないが左の足の裏も痛む)。
治療直後(感想等)/患者さんが「鍼が怖い」と言うので、鍼は2~3ヶ所のみにとどめ、あとはすべてお灸で施術を行った。治療直後、「少し痛みがマシかな~」と言いながらも、普通に歩いて帰った。
第二診/初診の3日後に来院。
「前回の治療後、その夜はマシだったが、次の朝起きたら痛みがぶり返した」と言う。
治療計画は「第一診」に同じ。
治療直後、アキレス腱の痛みがウソのように取れるが、右足を踏み込むと痛みが残る。
第三診/初診の1週間後に来院。
「アキレス腱の鋭い痛みは無くなっている」と言うが、鈍い痛みは残っている。「夕方疲れてくると、だるくてしかたがない」と言う。
話を聞くと、「職場の床がコンクリートの打ちっぱなしで、良く冷える…」と言う。防寒を心がけるようにお願する。
治療計画は「第一診」に同じ。
第四診/初診の10日後に来院。
「右(の足の裏)はマシになったが、今度は左が痛くなってきた」と言う。
おそらく、もともと両方の足が痛んでいたのだが、右足の痛みが強く、左の痛みに気づかなかったものと思われる。右足の痛みがマシになったので、左が痛く感じ出したという事。良い傾向だと思う。
治療計画は「第一診」に同じだが、「痛みに対する治療」をメインにしていたものを、「冷えに対する治療」をメインに切り替える。
第五診/初診の2週間後。
治療計画は「第一診」に同じ。
第六診/初診の3週間後。
「アキレス腱の痛みは完全に無くなった。足の裏の鋭い痛みは無くなったが、どことは言えないボーっとした痛みが足の裏にある」と言う。
治療計画は「第一診」に同じ。
第七診/初診の4週間後。
「両足の裏の痛みはほとんどなくなったが、かかととアキレス腱の付け根が、疲れてくると痛む」と言う。
治療はほぼ「冷えに対する治療」に重点を切り替え、痛みが出る部分への治療は補助的に行う。
この後、だいたい週一回のペースで治療を行う。
春になり、温かくなって冷えの症状がマシになったのか来院しなくなったので、一応、「治癒」としてカルテを閉じた。
感想(考察)
足の「痛み」を訴える患者さんは、①冷えから来る足の痛み、②疲れによる足の痛みの2つに分けられます。
この患者さんの場合は、冷えから来る足の痛みがベースにあり、それに右下腹部の熱感と硬い感じのある部位で、「気」の流れが滞ったために、鋭い痛みの症状が発症されたと考えられます。
もちろん、仕事上の疲れも、痛みに影響しています。
治療により、右下腹部の熱感が去り、硬い感じのある部位が軟らかくなったため、「気」の流れがスムーズとなり、痛みが去りました。
残った冷えの症状も、お灸の効果でゆるみ、気候が温かくなった頃に来院しなくなりました。
西洋医学的な検査をしても、何ら異常が無いにもかかわらず、痛みが現れることは多々あります。
上でも書きましたが、西洋医学には「気が滞る」という発想は無いので、「異常無し」との診断が下りやすくなります。また、「痛みが出ているところ」が「痛みの原因のあるところ」では無いので、「なぜ、痛んでいるのだろう?」という疑問がわき、不安になります。
もし、何らかの「謎の痛み」に苦しんでおられましたら、ぜひ鍼灸院のドアを叩いてみて下さい。