足の裏の痛み。胆石症から来る足の裏の痛み/胆石症の痛みが急速に引いた症例

足の裏の痛み 
(胆石症から来る足の裏の痛み/胆石症の痛みが急速に引いた症例)

患者/30歳代前半。男性。

主な症状(主訴)/足の裏の痛み。全身の疲労感。

症状(現病歴)/足の裏の痛みは初診日の朝から。とくに原因はなく、突然痛みだした。
        全身の疲労感。とくに右肩のコリと背部のコリがつらい。

その他の持病など(既往歴)/初診時には、特になし。後に胆石症の診断を受ける。

具体的な症状
 初診の日の早朝、急激な身体のだるさと差し込む様な腹痛(右のわき腹の痛み)で目覚め、しばらくうずくまっていたが痛みがまったく引かないので、救急車で夜間診療所を受診。
 そこで診察を受けるが原因が分からず、とりあえず痛み止めの点滴をされ、痛みがマシになったので帰宅させられる。
 夜間診療所までは救急車だったので気づかなかったが、帰り道、右足の裏に激痛があるのに気づく。
 朝一で、総合病院を受診。泌尿器系の疾患を疑われ、CTスキャン検査等を受けるが原因が分からず、とりあえず痛み止めを処方される。
 痛み止めのおかげか、右わき腹の刺しこむような痛みは「鈍痛(どんつう/鈍い痛み)」に変わる。全身のだるさもマシ。右肩のコリと背部のコリが残る。
 
家族歴/特筆すべき事項なし。

東洋医学的 四診(所見)

脈診/脈は力があり、ピーンと張った感じ。ビンビン指先に響く。「脈弦・緊」とはこの様な状態を指すのだろう。
舌診/舌体は赤黒い。白苔あり。

腹診/治療する前は右の上腹部全体が熱かったが、治療が進むにつれ、熱感が胆のう部に限局されるようになる。

触診/右足の裏が痛むと言うので、足の裏を触るが、若干熱感がある程度で、「激痛が走るほどではないなぁ~」と感じる。

 「おそらくこの足の裏の痛みは、飛んで来たものでは…?」と思う。

東洋医学的な概念的理解(診断)

 脈診では、「風邪気味だ」患者さんが言うので、浮脈を想像して触ると、「脈弦・緊」だったので驚いた。「脈弦・緊」は湯液でいう少陽病の典型的な脈。東洋医学でいう「中焦(臍から上腹部にかけて)」に何らかの異常があることを示唆している。

 舌診では、舌体は赤黒いのは、身体の中に熱がこもっているような状態をあらわしている。脈が脈なので、舌苔はもっと厚い白苔かと思ったが、そうではなかった。やや薄い白苔。なかなか教科書通りに行かない。

 腹診では、はじめ、臓器の位置を考えて、肝臓・胆のう・すい臓の頭、上行結腸から横行結腸にかけて…。などの臓器を疑ったが、治療後、最終的には胆のう部の熱感が残った。

西洋医学的な理解

 いくら泌尿器疾患を疑っていたとはいえ、医師がCTまで撮って、胆石症を見抜けなかったとは…。

治療と経過

初診/初診は某年11月中旬。
   基本的な治療計画は、「右上腹部の熱感を、とりあえず取る事」に集中し、その他の症状(足の裏の痛み/右肩のコリ/背部のコリ)は、「治療に必要なら取るが、取る事にこだわらない」とした。
   とくに、患者さんの主訴である足の裏の痛みは、ほとんど無視した。

治療直後(感想等)/
 治療直後、「全身の疲労感がとれ、右肩のコリ感と背部のコリ感は、来た時が10だとすると、3程度に減じた」と言う。
 おもしろいのが、治療中ほとんど無視していた足の裏の痛みが完全に消えた。
 熱感が胆のう部に残るので、「肝臓か胆のう。どちらかと言えば、胆のうだと思う。病名で言えば胆石か胆のう炎…。病院で検査してもらって下さい」と患者さんに言う。

第二診/初診の一週間後に来院。
    あらためて近隣病院で検査してもらうと、胆石症と診断される。
    この時、初診時の治療で痛みがほとんどなくなっていたので、医師から「痛みが無いなら、様子を見ましょうか」と言われ、手術しなかった。
    治療計画は「第一診」に同じだが、足の裏の痛みは完全に無く、胆のう部に残る熱感を取る事だけに集中し、同時に肩と背中のコリを取る治療を施す。

第三診/第二診の一週間後に来院。治療計画は「第一診」に同じ。

 この後、だいたい週一回のペースで「仕事の疲れをとるために」と来院する。
 胆石の痛みもぶり返すことなく、普通に生活している。

感想(考察)

 この患者さんの場合は本来、「胆石症の痛みが急速に引いた症例」とすべきなのでしょうが、臓器としての胆のうのある位置と同じ右側の「足の裏が痛んだ」というところが、反応として面白かった事と、治療中完全に足の裏の痛みを無視していたのに、足の裏の痛みが完全に引いたのが面白くて、症例報告を書きました。

 脈診、舌診、腹診等から、この方の場合、湯液でいう少陽病の小柴胡湯証もしくは、柴胡桂枝湯証が考えられます。

 病のメカニズムとしては以下です。

 ○ 体質的な特徴としては、まだ三〇歳代前半なのに、お酒が好きで肝臓が悪かった(血液検査の数値が安定しているそうで、西洋医学的な治療は開始していない)。もしかすると胆のうの中に石がすでに存在しており、暴れ出す前の段階だったかもしれないが、実際にどうだったかは不明。

 ① 何らかの原因で体調を崩し、免疫力が低下する。

 ② 一ヶ月ほど前に風邪をひく。葛根湯などを薬局で購入し服用。仕事が休めないので、治ったり、ぶり返したりを繰返す。この時すでに「外邪」が侵入していた。「外邪」とは、身体に悪い影響を与える外部から侵入したモノをあらわす。西洋医学的にはウイルス・細菌等をあらわす。

 ③ そうこうしているうちに「外邪」が内攻し、胆のうに侵入する(臓器として肝臓と胆のうは隣にあり、東洋医学的には肝臓の働きと胆のうの働きは表裏一体、密接に関係するとされている)。

 ④ 侵入した胆のうで、「外邪」は沈静化していた「毒(この場合は胆石)」に揺さぶりをかけ、活性化させる。

 ⑤ 胆のう部で暴れ出した毒は上腹部を邪熱で充満させ、それに飽き足らず、同側の足の裏に痛みをあらわした。
 と、考えられます。