子どもの近視について(総論的なこと)

子どもの近視について(総論的なこと)

はじめに。
 当院には色々な病気や症状について、「治りますか?」と電話がかかってきたり、また質問のメールが届いたりします。
 小児はりに関して言えば、「子どもの近視」についての問合せが比較的多いですね。

 たいていはお母さんが電話をかけてきますが、かなり深刻な声で電話をかけて来る方もいます。
 もちろん、私自身も子を持つ親ですので、心配になる気持も分かります。
 「子どもに牛乳ビンの底みたいなメガネをかけさせるのが、かわいそうだ」と言う親もいます。「こんなメガネをかけさせて、いじめられでもしないかしら」と心配になる親もいます。ややこしい時代ですからね…。
 「このままほっておくと、目がドンドン悪くなりますよ!」と、医者におどかされて、藁(わら)にもすがる気持で、電話をかけてくる親もいます。

 子どもの近視、およびメガネについて、どう考えたら良いのでしょうか。少し考えてみましょう。まず、専門家の意見を聞きましょう。

 引用は、『定本・育児の百科(松田道雄著・岩波書店刊)』です。ちょっと長いですが、項目をまるごと全部、引用しました。まず、お読み下さい。

「近視とメガネ」

 健康診断で、たまたま子どもが近視であることがみつかると、たいていの親は、まだ小さいからメガネをかけさせないでもいいだろうという気持になる。
 実際、幼稚園の生活では、黒板に先生がかいた字をうつしとることがないから、メガネなしでもやっていける。けれども、この年齢のすべての近視の子どもは、メガネなしでやっていいとはいえない。
 近視がある程度ひどいと、遠いところのものがみえにくいので、子どもは戸外であそぶことが少なくなり、部屋のなかで本ばかりよむことになる。うちの子は勉強が好きでたのもしいしと、母親はよろこぶ。しかし、それはこの年齢の子どもとしては異常である。1日の大半を外気のなかであそぶのが、この年齢の正常な生活である。近視のために、外であそべなくなって、仕方なしに本をよんでいるのだ。
 こういう子にはメガネをかけさせる必要がある。近視の子がメガネをかけると、急によくみえるようになるので、戸外でのあそびに興味をもつようになる。部屋のなかに閉じこもって本ばかりよむことをやめる。メガネをかけないでいると、本をよんだりテレビをみたりして、近視の度をつよめる。それによって、ますます戸外であそぶことをしなくなる。
 どの程度の近視からメガネをかけさせるかは、実際の生活できめる。横断道路の向い側の信号灯の赤と緑とが判別できるかどうかが、いちばん大切だ。信号灯がよくみえ、よく戸外であそぶ子なら、多少近視があってもメガネなしでやっていける。
 メガネをかけることにしたら、戸外ではもちろん、部屋のなかでもかけさせる(そのほうがよくみえるので子どもはすすんでかける)。本をよむときは、メガネをとってもいい。照明を十分明るくしないといけない。ただし寝室の照明は、くらくする。
 近視はメガネをかけてもかけないでも、22~23歳までは、少しずつ度がつよくなる。年に少なくとも一度は、眼科にいって検眼をしてもらわなければならぬ。
 仮性近視ということがよくいわれるが、それほどおおいものではない。ふつうの近視は、目の屈折装置は正常だが眼軸が長い(眼球の奥行きが長い)ので、像が網膜の前方に結んでしまう。仮性近視は毛様体筋がけいれんをおこして、レンズの屈折がつよくなっておこるのをいう。虹彩炎(こうさいえん)や外傷で一時的にそういう状態になることはある。仮性近視だと、毛様体筋のけいれんをとく薬を与えると、正常にかえる。
 発見されたすべての近視にたいして、仮性近視かもしれぬというので治療をする人もあるが、1カ月も遠方をみる訓練をして正視にもどらなければ、仮性ではなく、ふつうの近視とかんがえるべきだ。

 以上です。かなり詳しく、しかも解りやすく書いています。

つまり、どういう事か?

 さてこれを読むと、子どもの近視には、二つのパターンがあることが解りますね。つまり、「目の屈折装置は正常だが眼軸が長い(眼球の奥行きが長い)」ためにおこる近視と、「毛様体筋がけいれんをおこして、レンズの屈折がつよくなっておこる(仮性近視)」の近視の二つです。
 もっと単純化して言うと、「部品としての眼球そのものに問題がある」のか、「部品としての眼球は正常だが、その調節がくるっている」のかです。

 近視は病気ではありません。「ものが見えにくい」という煩(わずら)わしさはありますが、病気ではありません。失明する心配もありません。大丈夫です。 
 子どもだけではなく、大人もそうですが、人には色々な人がいます。顔の長い人、でかい人、小さい人。目がクリクリッとした人、はれぼったい人、一重の人、二重の人。背が高い人、低い人…。数えれば、きりがありませんね。
 近視に関して言えば、あなたのお子さんは、たまたま、「眼球の奥行きが長い」お子さんだったという事です。

 お子さんが二十歳を越えると、眼球のレンズ部分を削ったりする「手術療法」もありますので、お子さんが成長するのを待って、眼科にご相談されるのも一つの方法です。しかし、二十歳を越えるまではほって置いて下さい。もちろん上記のように、「年に一度は検眼」をし、「メガネを用意」してやる事は必要です。しかし、二十歳を越えるまではほって置いて下さい。
 上記でも、「仮性近視ということがよくいわれるが、それほどおおいものではない。(中略)1カ月も遠方をみる訓練をして正視にもどらなければ、仮性ではなく、ふつうの近視とかんがえるべきだ。」と、書いていますが、お母さんは、この言葉を受け入れる勇気を持つべきです。 
 お母さんの心配をエサに、群がってくるハイエナのような自称・治療家の何と多い事か…。気をつけて下さい。「何万円、何十万円払って、けっきょく視力は変わらなかった」という例は枚挙にいとまがありません。お気をつけ下さい。 

 まず、お子さんが目をしょぼしょぼしたり、眉間にしわをよせて変な見方をしたりすれば、眼科を受診して下さい。小学校に入学すれば、眼科検診がありますので、それでも遅くはありませんが、とりあえず、眼科を受診して下さい。 
 眼科を受診して、確かめてほしい事が一つだけあります。それは、「ふつうの近視」であるのか、「仮性近視」であるのかの診断です。診断がつけば、近隣の「小児はり」をやっている鍼灸院に、レッツ、GO! です。 

 まず、「仮性近視」の場合、劇的な視力の改善が期待できます。
 おそらく、眼球附近、特に頭部・項部に存在している悪いもの(邪気※)が目の毛様体筋に悪さをして、けいれんを起こさせているだけなので、その悪いもの(邪気※)を追い出してやる施術をしてやれば、視力は回復します。必ず良くなります。

 次に、「ふつうの近視」の場合ですが、劇的な視力の改善は期待できませんが、ぜひ、鍼灸院を受診して下さい。その理由をいくつか列挙します。

 ① ふつうの近視である場合も、お子さんの眼球附近の筋肉などは、それを調節するために、過度にがんばっている場合が多いものです。それを小児はりで取り除いてやるだけでも、目がスッキリし、視力そのものは回復しないものの、ものがはっきり見えたり、気持ちよく見えるようになります。
 ② ものが見えないというのは、お子さんにとっても大きなストレスです。小児はりによってそのストレスをかなり軽減させてやる事が可能です。
 ③ 実を言うと私(石部)も、小学校の低学年からメガネをかけさせられました。友達にからかわれたり、親に経済的な負担をかけさせたことを幼心にも気にしたりしていました。もし、信頼できる相談できる大人(鍼灸師等)がいれば、気持も楽になったでしょう。 

 とりあえず三つほど理由をあげましたが、小児はりに通ってほしい理由は他にもあります。しかし、文章が長くなりますので、この辺で省略しましょう。 

<結論>

 結論を言います。まず、眼科を受診し、お子さんの目の状態がどうなのか、よく検査してもらって下さい。できれば、もうけ主義ではない、信頼のおける眼科を受診して下さい。 
 次に、小児はりにせっせと通い、お子さんの心と身体のケアに心がけて下さい。 
 最後に、「近視は病気ではない」という事を、お母さん自身がしっかり認識をして、右往左往しない。二十歳をこえれば(一部では十八歳)、手術する方法もありますので、成長したお子さんと眼科の先生とよく相談をして決めて下さい。 

 ※「邪気(じゃき)」=東洋医学独特の概念。身体に何らかの悪影響をおよぼす気の総称。

蛇足 鍼灸師向けに一言。

 近視治療をはじめ、眼科疾患の治療部位は、先にもあげた頭部や項部が中心になりますが、それに加え、背部・腰部も治療にとって重要な部位になります。
 手技的には「瀉法(しゃほう)」という事になりますが、「瀉法、瀉法」と意識しないでください。小児はりなので、無心でやっても「瀉」になっているでしょう。「さばく」様な意識で良いと思います。
 仕事を捌く、在庫を捌く、邪気を捌く、と云う様な感じです。とにかく意識せずに、パッパ、パッパと施術します。もちろん、後に手・足に引っぱったり、腹部の調子を整えたりするのも忘れずに。

 また、『鍼道発秘講義』の三七章・小児雀目および、三八章・眼目の病を参考にすると良いでしょう。
 小児雀目・『小児、夕方より目の見えぬを、雀目(とりめ)と云う。百会、合谷、天柱、陽陵泉を刺すべし。』
 眼目の病・『眼は、精気の注ぐ所なり。かるが故に気塞(ふさ)がる時は、目の気薄くなるなり。或は結毒によって起こるも有り。天柱、睛明、肺兪、膏肓を刺すべし。手足に多く引くに宜し。毒有る者は、百会より少しずつ血を漏らすに宜し。』

以上です。