下痢ー「寒」か「熱」か迷ったが、「寒性下痢」だった症例
患者/60歳代・前半の女性。
主な症状/主訴は肩コリ。
その他、下痢、胸のむかつき。
症状/以前から、肩コリで来院の患者さん。
「最近、便が近く、下痢気味ですっきりしない。胸もいつもモヤモヤして、食後は胸やけをする」と言う。未消化便ではなく、消化はされている。水様便ではなく、軟便に近い。
また、下痢をしだす前後の時期から、肩こりがひどくなった。
東洋医学的 四診
脈診/全体に数脈。左の寸口のみ、浮。右の脈は弱い。
舌診/舌体は淡白。舌苔は白苔。舌下動脈の怒張(オ血)。
腹診/上腹部と下腹部に、手術痕あり。上腹部は、肝臓を3分の1除去している。下腹部は子宮筋腫の手術。
右の横腹に、広い範囲で、熱い感覚。しかし、皮膚の表面は熱いものの、身体の奥の方から、冷たい気がどんどん湧き上がってくる感覚を受ける。
触診/手足は冷えている。足の冷えに左右差はなかった。
概念的理解
脈診では、病が身体の比較的「上」の部分にあることを示しています。この患者さんの場合は、肩コリが「きつくなった」のを現しています。
舌診では、病が身体の内(奥)に進行しているのが解ります。
腹診では、胸のモヤモヤを確認しました。
右の横腹に、広い範囲で、「皮膚の表面は熱い」ものの、身体の「奥の方から、冷たい気」がどんどん湧き上がってくる感じを受けました。
脈診、舌診、腹診を総合的に判断すると、以下のような仮説を立てることができます。
① もともと身体が冷え、元気の無い患者さんがいました。
② その患者さんが、邪気を受け風邪をひきました(肩コリの悪化)。
③ その患者さんは外から入ってきた風邪を排除する体力がなく、邪は内攻して行きます(胸のモヤモヤ、下痢)。
④ しかしこの患者さんに、邪を排除しようとする体力が若干残っていたのか、腹部で反撃を開始し、皮膚表面上にその反応が現れた(右横腹の「熱」)。


治療と経過
初診/某年6月中旬
この患者さんの場合、右腹の「皮膚の表面は熱いのに、奥が冷えている」所の刺し方がポイント。
表面の「邪熱を散じ冷やす治療」と、奥の「寒を温める治療」を同時に施さなくてはならない。
治療直後/治療直後に、胸のモヤモヤが消える。
第二診/初診の1週間後に来院。治療は第1診に同じ。
第三診/初診の2週間後に来院。
肩コリがいくぶんましになる。
右腹部の「熱」が消え、「寒」が残る。
治療は、右横腹の「熱」に対する治療は中止し、「寒」の治療に専念する。
第四診/初診の3週間後に来院。治療は第3診に同じ。
第五診/初診の4週間後に来院。治療は第3診に同じ。
第六診/初診の5週間後に来院。
下痢が止まる。
腹部の「寒」の範囲も小さくなり、「冷たさ」もましになる。
治療は第3診に同じ。
下痢が止まってからも、もともとの「肩こり」の治療をするため、だいたい週一回のペースで来院。
症例報告の「下痢」がおさまったので、カルテを閉じる。
感想
この患者さんは、痩せていて、小柄な、本当に昔の「おばあちゃん」という感じの患者さんでした。
下痢には、「熱性下痢」と「寒性下痢」の2種類があります。
この鑑別をしないで治療すると、後でとんでもない事になってしまいかねないので、十分な注意が必要です。
ひどい肩コリ、胸のむかつき、右横腹の皮膚表面の熱い感じにだまされ、「熱性下痢」と判断してしまいそうになります。
また、脈も浮、数で「熱」を連想させ、舌の色も、少なくとも「寒/陰病」を連想させるものではなく、「陽病」を連想させる情報です。「熱性下痢」と判断してしまいたくなります。
しかし、「熱性下痢」に対する治療を施しても治りません。逆に下痢を進行させて、患者さんを衰弱させる結果になるかもしれません。
下の図は、左は初診時(再録)、右は第3診時の腹証です。
同じ人の腹証とは一見思えませんが、「表面の熱」を取ってやると、「奥」からこのような腹証があらわれてきます。
よくよく気を付ける必要があります。

