足のむくみ(浮腫)と痛みが改善され、歩行困難が楽になった症例 訪問医療

足のむくみ(浮腫)と痛みが改善され、歩行困難が楽になった症例。
  (訪問医療/鍼灸治療)

患者/ 88才、女性。やや太り気味。

主な症状/足のむくみ(浮腫)と痛み、それにともなう歩行困難。

症状/
  むくみは全身にあるが、とくに足が重くだるく、トイレに行くのがやっと。
  往診の担当医師からは、「腎臓かな~」と言われているらしい。尿素窒素値(+)、クレアチニン値(+)。
  そのほか、老人性の疾患が多数ある。左ひざの膝関節症(+)、腰痛(+)、肩こり(+)。
  その他、悪い所いっぱい。

東洋医学的 四診

脈診/沈。年齢のわりには脈管はやわらかく、脈管がつぶれる印象もなかった。
舌診/おそらく悪かったんだと思うが、カルテに記載が無い。なぜだ!
   ちゃんと見ておけばよかった。反省。
腹診/全体的に力はないが、「虚」というほどでもない。硬いところや、塊(かたまり)のようなもの等は感じられない。
   下焦の奥の方からかすかな「寒」を感じる。
触診/浮腫は足首が顕著で、むくみがひどい日には、倍くらいに腫れているんではないだろうかと思うくらい、太くなる。

東洋医学的な概念的理解

 脈診はとにかく沈脈。沈めた時、奥の方でゆっくり脈を打っている。生命力は落ちている。
 腹診では、特に異常を感じられなかった。

治療と経過

初診/某年12月5日
 訪問医療を主にしている医師から、同意書が出たので鍼灸治療を開始する。
 歩行が困難なため、往診をする。
 治療に関しては、後述する。

治療直後/第二診の時に症状を聞くと、「足の腫れは引いていないが、歩きやすい」とのこと。「訪問の看護師さんがびっくりしてた」と患者さんの談。

第二診/12月7日 治療は第一診と同じ。

第三診/12月11日
 足の腫れはまったく変わっていないのに、「鍼をしてもらうようになってから気持ちが良い」と言う。本日は覆臥位(うつ伏せ)になれた。
 治療は第一診と同じ。

第四診/12月14日 治療は第一診と同じ。

第五診/12月18日
 足の腫れの状態は不変。
 足の腫れはひとまず置いておいて、腹の状態を整えることと、この頃でてきた腰痛の治療に専念するという方針を立て、治療する。
 腹の状態を整えると、調子が良い(気分が良い)日が多いと言う。

第六診/12月21日 治療は第五診に同じ。

第七診/12月25日 同上。

第八診/12月28日 同上。

第九診/翌年1月9日
 頭もしっかりしていて気分が良いそうであるが、足の腫れがおさまらない。
 訪問の医師の判断により、翌日の10日に近隣病院に入院することが決まる。

第十診/2月22日
 約1ヵ月の入院ののち退院。病名は、「子宮内肉腫」。本日退院後の第一診。
 入院中ずっと足を上に上げていたらしく、「足の腫れはまったく無くなり、細くなったが、動けなくなってしまった」と、患者さんの娘さん。「入院前はトイレくらいなら歩いて行けたのに・・・」と、残念でならない様子。
 その上入院前は意識もはっきりしていたのに、帰って来ると、認知症の症状が出るようになっていた。
 刺法は、後述する。

第十一診/2月25日
 元気そうに見えるが、会話が出来ない。質問には反応するが、質問した内容と異なる答えが返ってくる。それでも話しかけると、おしゃべりは好きなようで、別に嫌がる様子は無い。

 「固形物はおろか、果汁でも吐く。水と痛み止めの薬しか口に出来ない」と、娘さん。
 脈は、沈・細・数。
 便が出ない。

第十二診/2月27日 日に日に弱っていく印象を受ける。

第十三診/3月1日

第十四診/3月6日 本日は元気。受け答えもスムーズで、食欲もあるとのこと。

第十五診/3月8日

第十六診/3月11日 本日風邪を引いた様子。「風邪の治療」をする。

第十七診/3月13日

 この後、だいたい週2回のペースで往診。
 この時期に入ると、「治療」と言うよりも、床ずれや関節の拘縮を「予防」する治療のほうが主になる。
 よくおしゃべりして調子の良い日や、まったく何の反応もなくなる日があるなど、良くなったり悪くなったりしながらも、約一年ほど鍼と灸の治療を続けられ、お迎えが来たので旅立たれた。

感想

 この患者さんは入院するまで、良い調子で来ていました(第九診の1月9日まで)。
 なんとか歩いてトイレまで行っていましたし、鍼灸の治療をはじめてからは足の進み方がスムーズになっていました。

 しかしを入院して、足をつって、足の水を全部体幹部もどしたところ、意識が飛んでしまいました。

 これは、無理やり足の水(水毒)をもどしたことにより、子宮内の肉腫(毒)はもともと沈静化していてすぐさま危険な状態ではなかったにもかかわらず、毒気(邪気)に当てられ毒性化が増大。毒性化が増大した毒から邪気が放出され、頭を突いて認知症を呈したり、「飲食下らず」の状態を呈したのではないかと考えられます。
 足が腫れるには腫れるなりの理由というか、原因があります。それを無視して無理やり、「水を戻したら良いやろう」と、足をつっちゃいけませんわね…。

 往診していた医師も、患者さんの足があまりにも腫れるものだから、「何とかしてやりたい」という気持で、入院をすすめたのですから、非難は言えません。
 なかなか、難しいところです。

 さて、この患者さんの場合、初診時は、症状から見て、「腎」を疑うのが基本です。なので、足の小陰腎経を中心にツボを撰べばよいでしょう。
 また、『鍼道発秘講義』には、「水腫(すいしゅ)」の章で、

 『水気(すいき)にて腫れる事なり。是れは、横腹、小腹の辺(へん)、両の足に、水引きの鍼を刺して、多く水を漏らすべし。或は百会、肩井、肩を刺して、小便を通じさすべし。又、気海に、毫鍼を以て、補うべし。』

 と、あります。このまま、まるごと参考にすると良いでしょう。
 「水引きの鍼」とは、横腹、小腹を鍼してゆさぶっておいてから、両足のツボを使って、水が漏れ出るように鍼をする事です。
 もちろんこのとき使うツボは、足の少陰腎経から選びます。
 水が漏れるのは、おしっこで出るのが一番いいでしょう。気持ち良いし。下痢や汗で出ても良いですが…。

 次に、第十診の鍼の説明もしておきます。

 『鍼道発秘講義』には、「放心(ほうしん)」の章で、

 「乱心(らんしん)の事なり。先ず肩、背の内を多く刺して、気を晴らし、後、毫鍼を以て、気海を久しく留め、陰陵泉に引くべし。」

 と、あります。参考にすると良いでしょう。
 湯液なら、「桃核承気湯」を取り急ぎ飲ませ、下し、意識が正常に戻った段階で、浮腫に関係する湯液(利水効果の高い漢方薬、例えば五苓散等)を飲ませるのが良いでしょうか。下したことにより、「陰」に落ち込むことも予想されるので、その対応を頭の中に入れておいても良いかもしれません。

 ※もちろん鍼灸師は、法律上、漢方薬を処方できません。