左股関節から大腿にかけての痛み。早期に歩行が改善された症例。鍼灸治療

左股関節から大腿にかけての痛み。鍼灸治療。
  (早期に歩行が改善された症例)

患者/80才、女性。

主な症状/左股関節から大腿にかけての痛み。

症状/
 左股関節の人工関節手術を10年ほど前に行う。手術後2~3年ほどは調子が良かったが、徐々に調子が悪くなり、ここ数ヶ月は痛くて歩けなくなった。トイレはポータブルを使用。
 「何とかトイレまで歩かせたい」との家族の希望もあり、訪問(自費治療→のちに保険治療)。

東洋医学的 四診

脈診/やや沈、やや遅。
舌診/舌体は青紫色で暗い色。
   舌裏には血管の怒張が見られる。
腹診/上腹部は、横にくっきりとした線が走っている。
   寝かせて(仰臥位)みると、腹の皮が伸びてもスジばっている事を確認。
   上腹部に発疹が多くある。
   下腹部はポチャポチャとした感じで、力はない。しかし、手を深く入れていくと、奥に縦方向にスジがはしっている。俗にいう、「腐った瓜状態」を呈している。
   左股関節から大腿前面にかけてスジバリがあり、そのスジバリのはしっている付近が痛む。
触診/  足は冷たく、靴下を常用。

東洋医学的な概念的理解

 脈診では、病が深くにあることを暗示しています。
 舌診では、身体に「寒」があり、下焦のオ血を暗示しています。
 腹診では、色々と悪いものがつまっていることが感じられます。徐々に治療して行き、悪いところを一つ一つ除いていかないと、どこが本当に悪い所なのかが確かめられない状態です。
 しかし、悪そうなところを一つ一つ潰して行くと、悪いところが残りますので、そこが一番悪いところです。

治療と経過

初診(某年2月15日)
 上腹部は邪気を散じる感じで。
 下腹部は水を追い出し、温める感じで。もちろん足にも充分気を引いて。
 腰も痛いので、腰の治療も。
 痛んでいる患部は、刺激が過剰にならないように注意しつつ、深く入れてひびかせて、抜針。

治療直後/
 第2診の時に聞くと、「太ももの前は痛くなくなったが、後ろが突っ張りだした」と言う。
 主訴である、「左股関節から大腿にかけての痛み」が、たった1回の治療でほとんどなくなった事に、自分自身でも驚いた。

第二診(2月19日)
 大腿前面の痛みは消えたが、後面のツッパリ感を訴える。
 治療は第1診に同じ。

第三診(2月26日)
 治療は第1診に同じ。

第四診(3月5日)
 「鍼をしてもらうと、2~3日楽」とのこと。
 上腹部に存在する、手に感じる「気持ち悪い感じ」もなくなっている。発疹も乾いてきたように感じた。

第五診(3月12日)
 「だいぶん楽」とのこと。週2回の治療から週1回へ変更。

第六診(3月19日)
 下腹部も水気(すいき)が抜け、しっかりとした印象になる。
 本日はじめて、歩行訓練を行う。

第七診(3月26日)
 「腰痛症」で鍼灸の同意書が下りたので、保険治療に切り替える。
 実費でも、保険でもやることは、同じ。

 この後も、週1回のペースで治療を続け、約半年ほど鍼灸治療を続ける。
 治療開始当初に比べても、かなり症状が改善された。

 約半年ほどたったある日、顛倒され、骨折。入院されたため治療は中止となった。

感想
 この患者さんは、かなり早い段階で歩行が改善された症例です。
 人工関節手術後ということと、80歳という年齢、痛みの具合等を考えると、もっと回復が遅いと予想していたが、回復が早く、私自身も驚いた。
 しかし、実際の臨床では、普通はこう行かない事の方が多い。
 本当に実感しているが、在宅の患者さんは、「薄皮を一枚一枚はがすような感じ」という表現がぴったり来る患者さんが多い。
 長い時間をかけて悪くなるのだから、良くなるのも長い時間がかかる。
 「仕方が無い」と、ある程度は患者さんにもあきらめてもらうしかないのだが、ごくまれに、この患者さんのように、1回の治療で劇的に痛みが取れ、2~3回の治療で歩けるようになる人もいる。

 人間というものは、本当に不思議な生命体だと思います。