不整脈の症例。早期に不整脈が改善された症例。

不整脈の症例。早期に不整脈が改善された症例。
  (「とにかくしんどい」と言って来院してきた患者さんの症例)

患者/70歳代前半の女性

主な症状/
 「とにかく、しんどい。なんとかして欲しい」と言って、来院。 
 身体がしんどい。
 脈をとると、不整脈もある。
 その他、「いつもより、肩こりがきつい。気分が悪くて、ご飯が食べられない」といった症状もある。

症状/
 脈の症状としては、脈のリズムが悪い。
 強い脈がきて、弱い脈、強い脈、弱い脈…と、心拍リズムが不規則になっている。
 「不整脈」とまで明確に診断されるか「微妙だな~」と感じたが、医師の診察を指示。
 第1診と第2診の間に、患者さんが近隣の内科で心電図を取ってもらったところ、「異常なし」との診断を受ける。
 以前、「狭心症で薬をもらったことがある」とおっしゃっていたので、心臓に何らかの異常が有ることは確かだが、検査では出てこなかった。

東洋医学的 四診

脈診/脈のリズムについては、「症状」の項目を参照。
   脈管の力はない。
舌診/舌体は薄い紅色。舌苔は、薄い白苔。
腹診/
 左の横腹に、すじばりあり。
 左の臍の横に硬く触れるものあり。
 腹部全体に「寒」あり。
 どこが「寒」なのか、境界があいまいなうえ、腹全体がとにかく冷たい。(下図参照)
触診/特筆すべき事柄は無し。

東洋医学的な概念的理解

 脈診では、脈管がに力が無く、患者さん全体から感じる雰囲気も、「弱っている」と感じた。
 舌診では、湯液でいう「太陰病」に近い舌証をしている。
 腹診では、左の「すじばり」を特に感じた。また左の臍の横に硬く触れるものあった。安易な発想だが、心臓が左に寄っているから症状も左に寄って来ているんだろう。
 ちなみに手術痕は、胃がんで、2分の1くらい切除したと言っていた。
 いつもはただ「寒」のきついお腹なのに、すじばりや硬く触れるものがあるせいか、「寒」はそれほど感じない。



西洋医学的な理解

 以下、『メルクマニュアル医学百科』より抜粋。

 「不整脈とは、心拍数が異常に多い(頻脈)、または少ない(徐脈)ことにより、あるいは電気刺激が異常な伝導経路をとることにより、心拍リズム(脈拍)が不規則になった状態をいいます」とあります。この患者さんの場合は、「心拍リズムが不規則になった状態」です。

 「不整脈の起こる主な原因は、冠動脈疾患、心臓弁障害、心不全などの心疾患です」とあります。近隣の内科で、心電図を取ってもらったそうですが、今回は「異常なし」との診断を受けています。以前、「狭心症で薬をもらったことがある」とおっしゃっていたので、心臓に全く問題が無いわけではないようですが、今回、その医療機関では異常が発見されませんでした。

 「不整脈には無害なものから命にかかわるものまで、幅広くさまざまな種類があります」、「不整脈そのものよりも、その原因となっている心疾患の特性や重症度の方が重要です」

 「ほとんどの不整脈は、症状を引き起こすことも、血液を送りだす心臓のポンプ機能を損なうこともありません。したがって、不整脈に気づけば大きな不安を感じますが、不整脈によるリスクはほとんど、あるいはまったくありません。しかし、特定の不整脈は、それ自体には害がないにもかかわらず、より重症の不整脈を引き起こすことがあります。不整脈により、血液を送り出す心臓のポンプ機能が損なわれ、十分な量の血液を送り出せなくなると重症です。重症度は、不整脈が洞房結節、心房、心室のどこを起源としているかによってある程度決定できます。一般的には、心室を起源とする不整脈が最も重症で、ペースメーカー部を起源とする不整脈よりも重症な心房を起源とする不整脈よりも、さらに重症です。ただし、例外もたくさんあります」

 「無害な不整脈の治療は、患者が自分の不整脈に害がないことを再確認するだけで十分です。医師が薬の種類を変えたり、用量を調整したりするだけで、不整脈の頻度が低下したり、不整脈が起こらなくなったりすることもあります。飲酒、飲みものや食べものからのカフェイン摂取、喫煙、激しい運動などを避けることも、不整脈の治療に効果的です」

 と、あります。

治療と経過

初診(某年 7月中旬)
 手の陰経、とくに「少陰心経」とか、「厥陰心包経」とかが重要な治療点になる。
 中カン穴付近を刺鍼中、グルグルとお腹が鳴る。
 足に引く(今回は三里穴)。
 腹、肩・背中を十分緩める。
 万が一の事があるといけないので、近隣の医院で検査をしてもうように、患者さんにお願いをする。

治療直後(感想等)/少しリズムが落ち着いたようには感じたが、患者さん本人は何も感じなかった。

第二診/第1診の2日後に来院。
 第一診時ほどではないが、脈はたしかに暴れている。治療は「第一診」に同じ。
 治療後、かなり脈が落ち着いたので感動した。

第三診/第2診の2日後に来院。
 第2診の治療後、「家に帰ってご飯が普通に食べれた」と喜んでいた。治療は「第一診」に同じ。

第四診/第3診の3日後に来院。
 脈もかなり落ち着き、腹部の「寒」も、かなりましになってきている。治療は「第一診」に同じ。

第五診/第4診の3日後に来院。
 脈は完全に落ち着く。
 身体のしんどいのもまし。「肩コリはきつい」と顔をしかめる。
 腹部の「寒」が、かなり緩和されている(下図)。
 治療は「第一診」に同じ。

 初診~第5診までは2~3日間隔で来られたが、第6診以降はだいたい週一回のペースで治療を続ける。約一年ほど鍼と灸の治療を続け、かなり症状が楽になった頃から来院しなくなった。一応、「治癒」としてカルテを閉じる。

感想

 この患者さんの場合、患者さんの主訴は「とにかく、しんどい」です。
 脈をとると「脈のリズムが悪かった」ので、心臓に何らかの不具合がありそうですが、医療機関では、「不整脈」の診断は出ていません。
 いちおう脈が乱れていたので、症例のタイトルを「不整脈」としましたが、適当ではないかもしれません。

 この患者さんの場合、「しんどさ」が先で、脈が乱れる「不整脈」はあとだと思います。
 つまり、「不整脈」があるから「しんどい」のではなく、「しんどい」のが先にあって、その「しんどさ」のせいで「不整脈」になったと判断するのが正しいでしょう。
 ですから、「不整脈に効く」と呼ばれているツボはたくさんありますが、それに引っ張られてそればかりを選んで治療しても、おそらく治らないでしょう。

 腹部の「寒」を温める治療、スジバリを緩める治療、悪化した肩こりをやわらげる治療にも目をつけて、治療しなくてはなりません。