不整脈の症例。(胸の中が「寒」だった、心悸亢進と不整脈が主訴の症例)

不整脈の症例。
  (胸の中が「寒」だった、心悸亢進と不整脈が主訴の症例)

患者/50才代中頃の男性

主な症状(主訴)/心悸亢進、不整脈。

症状(現病歴)/
 仕事中に心臓がバクバクと鼓動し、意識を失い、救急車で運ばれる。
 病院に運ばれた直後に意識を取り戻すが、2日ほど検査のため入院。
 病院でいろいろな検査をしたが、「不整脈以外これといった症状も無く、おそらく過労から来たものだろう」と退院させられる。
 以後、「仕事で無理をすると心臓がバクバクと鳴り、脈が飛んでいるような気がする」という。

その他の持病など(既往歴)/特になし。

家族歴/特になし。

東洋医学的 四診(所見)
 脈診/やや浮き気味の脈。
    初診時はやや「数脈」の程度だが、疲れがたまると速くなる。
    1分間脈を診ると、3~4回程度飛ぶ。
    (※疲れていない時は飛ばない。治療後は飛ばなくなる。)
 舌診/舌先がやや赤い。
    舌下静脈がやや怒張。
 腹診/胸の「寒」が顕著。
    胸脇部からのびるスジバリ
    心下につかえ(圧すると「うっ!」と来る)
    下焦は「寒」とまでは言わないが、冷えてはいる。(下図参照)
 触診/全身温かく、下焦もそんなに冷えていないのに、胸だけ冷えている(「寒」の)印象。

東洋医学的な概念的理解(診断)

 脈診と舌診では、やや「熱」というか「陽」の印象を受けるのに、腹診では胸の中の「寒」「陰」の印象がきつく、「あれ、なんだろこれ?」という印象を受ける。

西洋医学的な理解

 省略します。

治療と経過

初診/某年9月下旬
 胸の「寒」に対して、いきなり治療するのが怖かったので、手の「生きたツボ」をさぐって施術する。
 目の付け所としては、手の厥陰心包経などを選択。
 鍼で施術するが、あまり変化が無い。
 この患者さんがお灸が好きだったことを思い出し、ゲキ門穴と内関穴にお灸をする。→直後に胸を触ると、「寒」がかなり減じ、温(ぬく)もってきていることに気づく。
  胸脇部からのびるスジバリ、心下のつかえ、下焦の冷えては、下手に治療をして「何か」が上るとイヤなので、軽くさばく程度に治療をし、様子を見てもらう。

治療直後(感想等)/「なんとなく、胸が楽みたいだ」と喜んで帰る。

第二診/初診の5日後に来院。
 胸の「寒」はあるものの、初診ほどは冷えていない。
 治療は「第一診」に同じ。

第三診/第2診の1週間後に来院。
 第2診の時よりも、「寒」がゆるんでいる。
 初診の診察時がドライアイス、第2診が氷、第3診が氷水のような冷たさ。
 治療は「第一診」に同じ。

第四診/第3診の2週間後に来院。
 胸の冷たさが、第2診の「氷」のような冷たさに戻っている。
 「仕事で無理をすると、心臓がバクバク言ったり、脈が飛んだり、めまいの様なものを起こします」という。
 治療は「第一診」に同じ。

第五診/第4診の5日後に来院。
 胸の冷たさがほとんど感じられなくなる。
 「心悸亢進も不整脈も、第4診以降出ていない」と言う。
 念のため、治療は「第一診」に準じる。

 この後、だいたい週一回のペースで来院され、治療する。
 心悸亢進・不整脈の治療を念頭に置きながらも、第6診以降は「肩こり」の治療に徐々にシフトする。

感想(考察)
 この患者さんの治療で悩んだことは、「胸が冷えている」という事でした。
 普通は、心悸亢進や不整脈の症状が有れば、胸の中に「熱」がこもり、熱いはずです。
 それが、「寒」とは、どうも解せない。

 精神的なトラブルをかかえ、胸の中でもやもや考えているタイプの患者さんや、強烈な孤独感をかかえている患者さんの胸の中が、冷えていることは良くあることです。
 この患者さんの場合、精神的なストレスが「主」で、不整脈・心悸亢進が「従」ではなかったかと思われます。
 
 ですから、「不整脈」の治療ではなく、「ストレス」の治療を優先しました。
 上手く行ったようです。