アトピー性皮膚炎が急速に改善された症例 小児はり 鍼灸治療

小児鍼症例④ アトピー性皮膚炎が急速に改善された症例。

患者/0才11か月・男児。

主な症状(主訴)/アトピー性皮膚炎。

症状(現病歴)
 顔、背中などアトピーがひどい。かゆみで夜2時間おきに起き、夜泣きしてしまう。
 生後1カ月目より発疹。医院にてステロイドを処方され塗っていたが、横浜の鍼灸院を紹介され行ってからステロイドをやめるように指示され、ステロイドをやめてから発疹がひどくなった(生後10か月)。
 各種の検査により、各種アレルギー。
 「腸の動きが悪い」と言われた事もある。
 頭、顔面、胸、腹、腕、足に発疹あり。

その他/
 ・手術や長期入院などされましたか? いいえ。
 ・生まれたときの体重 3500g
 ・現在体重 9㎏
 ・ご飯は? 普通。
 ・便は? 普通。
 ・睡眠時間 10時から9時ごろ。
 ・昼寝は? する。
 ・分娩 普通分娩。
 ・食物アレルギー ある。

東洋医学的 四診(所見) 

 下腹部の「虚」が顕著。腹部全体に「虚」。「寒」は無い。
 鼻閉。
 右足が左足にくらべて太い(理由は不明)。
 身体の小ささに比べて、浮腫んでいるイメージ。

漢方薬剤師の意見

 鍼灸だけでは「無理」と判断したので、知り合いの薬剤師に紹介し、漢方薬を処方してもらう。
 薬剤師のM先生よりメール。内容は以下。

 「ご紹介くださりおおきに。
 結構ひどい状態ですね。
 あきらかにステロイドのリバウンドでしょう。
 横浜の鍼灸師は無責任ですね。怒りを感じます。
 よくも知らない薬のことを、「ステロイドは恐いから止めなさい」って止めさせる。
 リバウンドは大変です。
 ステロイドも止め方があるのに、知識のない、無教養な鍼灸師に当たった不幸です。
 ほんと患者さんがかわいそう!
 薬は消風散を出しておきました。
 共同で治療をしましょう!」とのこと。
  
 ちなみに消風散は、『外科正宗(明の医師・陳実功が1617年に書いたもの)』という本に載っている薬方です。
 成分は以下のとおり(会社によって、内容量は前後する)。

  トウキ末2.8g セッコウ末2.8g ジオウ末2.8g ボウフウ末1.9g モクツウ末1.9g ソウジュツ末1.9g ゴボウシ末1.9g クジン末0.9g カンゾウ末0.9g センタイ末0.9g ケイガイ末0.9g チモ末1.5g ゴマ末1.5g

 荒木正胤著/『漢方養生談』によると、当帰は、「血を補い、痛みを止め、裏寒をあたため、諸瘡瘍を治す」とあり、石膏は、「煩渇を主治する。ゆえによく裏位にある大熱を解し、皮膚の枯燥を潤おし、上逆をおさめる」とあり、地黄は、「血分の熱を瀉し、血を生じ、出血を止め、経脈をととのえ、秘結をうるおす」とあります。

 つまり、血の熱や過不足をととのえ、便秘やガスの滞りを下し、諸瘡瘍を治し、皮膚を潤沢にする作用が有るお薬という事です。

治療方針
 とりあえず全身を瀉する治療に専念し、その他の治療は、アトピーの症状が落ち着いてから行うものとした。

治療と経過

初診(某年1月4日)
 治療は「治療方針」に従う。
 ほとんど瀉法。補っている余裕はない。
 鍼灸だけでは「無理」と判断したので、M先生(薬剤師)に紹介し、漢方薬を処方してもらう。

第二診(1月6日)
 初診後、顔面の皮膚症状が急速に引く。しかし、他の部位は不変。背中の発疹が増えたように思うが、おそらく悪い反応ではないように感じた。
 「便が良く出る様になった」と言っていた。ほとんど皮膚の熱を取る様な治療(瀉法)しかしていないのに、腹の状態が良くなり、便が出るようになったのは反応としては面白い。
 しかし、まだまだ予断を許さないような皮膚症状であることは変わりがない。

 小児はりだけでは弱いと判断し、お母さんの了解を得て、井穴刺絡を行う。その他は、第一診に同じ。

第三診(1月8日)
 さらに皮膚炎の範囲が小さくなっている。
 治療は、下腹部の「虚」と「肩こり」を中心に施術。
 施術中は気持ち良さそうにしていたが、終わると、「もっとやってくれ」とでも言いたげな表情で泣きだした。
 「ドーゼオーバー」を気にして、さらに治療を加えるということはしなかったが、症状が激しい子どもだったので、もっとやってあげても良かったのかもしれない。

第四診(1月13日)
 全体的に少しマシ。
 「夜、1~2時間おきに起きて泣いてぐずっていたのが、2~3時間おきに変わった」とのこと。やっぱり子どもは寝ないといけない。
 今日初めて腹診をする。それまでは皮膚の熱症状がきつかったので、腹診できなかった。
 胸に熱のこもった感じ。下腹部・下焦の「虚」。「寒」は無い。

第五診(1月15日)
 皮膚の炎症が急激に悪化。「悪化」とはいうものの、1月4日の状態には戻っていない。
 両親ともに、漢方薬(消風散)に入っている「ゴマ」に子どもがアレルギーがあることが気になっているようで、「漢方薬をやめても良いか?」と相談を受ける。
 また、当院の治療に満足されなかったのか、「他の治療法を試してみたい」とも相談を受ける。

感想(考察)
  
 正直な話、あまりにも皮膚の状態が悪かったので、初診(4日)の時はこちらがビビってしまい、まともな治療ができなかった。
 とはいえ、顔面の皮膚の状態が良くなっているのが、小児はりの恐るべき治療効果のなせるワザである。
 第2診(6日)から井穴刺絡を開始したのが良かったのか、皮膚の炎症が徐々にマシになる。それにともない、夜泣きもマシに。
 皮膚の症状がマシになったので、第4診で初めて腹診ができたが、やはり胸に熱のこもった感じや下腹部・下焦に「虚」が存在していた。
 本当に残念ながら、第5診を最後に治療に来られなくなった。
 当時は私も開業間も無くの時期であり、「私が治すから、安心して通いなさい」とも言えず、当院での治療を断念されたが、その後良い先生にめぐり合い、症状が良くなっていることを願うばかりである。

 今ならはっきりと、「私に治せない病はない!」と言ってやれるのだが…。

 アトピー性皮膚炎の治療を行っていると、必ず、ステロイドについて質問をされます。
 ステロイドは現在では副作用の少ない「良い薬」ができているという話は良く効きますが、それでも、「使わないにこしたことはない薬」であることは確かです。
 ただ、自己判断や上の薬剤師の先生が言う「知識のない、無教養な鍼灸師」の指示によって、かってにやめたり、かってに再開するのは最も危険です。医師も、充分リスクを知った上で処方しているのですから、医師に無断でやめたり再開するのは絶対にやめましょう。
 とは言え、ステロイドを処方するしか引き出しのない「知識のない、無教養な医師」も存在するわけですので、その辺は、見極めが大切ですがね…。

 下の画像は、第2診時治療前の顔の赤みの減少具合です。
 確実に、減少していたのになぁ~。