夜泣きの治療自体は上手くいきそうだったが、結局ダメだった症例。小児鍼。鍼灸治療。

小児鍼症例⑥ 夜泣きの治療自体は上手くいきそうだったが、結局ダメだった症例。

患者/0才7か月・女児。

主な症状(主訴)/夜なき。

症状(現病歴)/
 夜七時ごろに寝かしつけるが、二~三時間おきに起きて泣く。母乳を与えると泣きやむが、二~三時間すると泣く。明け方は一時間おきになる。まだまだ、「啼く(金属音的な泣き声)」というレベルまでは行っていないが、「なかなか泣きやまない」ので、実の祖母から「『鍼灸院に行け』って言われて、インターネットで調べて来ました」とお母さんは言う。
 その他、生まれたときの体重は二五一〇グラム、現在は八.二キロ。まるくてプクプクしているが、異常なほど太っているわけではない。ミルクは母乳、よく飲む。便はやわらかい。普通分娩。食物アレルギーとアトピー性皮膚炎がある。
 食物アレルギーは、「ミルクしか飲ませていないのでまだ詳しくは調べてもらっていない」と言うが、医師からそう診断されたらしい。アトピーは皮膚科を受診。皮膚科ではぬり薬として、アズノール(植物由来の非ステロイド軟膏とある)と一番弱いステロイド軟膏(名前不明)、飲み薬としてかゆみ止め(名前不明)をもらっているとのこと。

東洋医学的 四診(所見)
 触診。首のまわりに熱感があるが、邪気をはらんでいるという所まではいかない。
 頭部と胸部にも熱感はあるが、首のまわりほどではない。
 下肢前面、胃経のスジがパンパンに張っている。下焦がやや虚、寒はない。

治療方針
 生後七ヶ月ということは、ちょうど母親からもらった免疫が切れる時期に重なる。
 免疫が切れかかって体内のバランスを崩している所に、おそらく胃腸がもともと丈夫ではないのであろう、邪に入られた。
 しかし、アトピーの治療などを開始している関係なども有るのか、皮膚から汗を出す事が上手くいかず、熱がこもり、「夜なき」を発症したものと思われる。

治療と経過

初診(某年6月4日)
 治療・小児はり。当時は、金メッキのばち針と純銀製のテイ鍼を使用していた(現在は、純銀製のテイ針と純銀製のイチョウ鍼)。
 ばち針で熱のあるところをさばく感じで、テイ鍼で虚しているところを補う感じで治療を行う。

第二診(6月6日)
 第二診時に触ってみると、頭部および首のまわりが少し汗ばんでいた。いい方向には向いているようだ。
 母親の談によると、症状については「変化は無い」との事だが、確実に良い方向に向かっているという自信はある。
 治療は「第一診」に同じ。

感想(考察)
 この患者さん(小児・七ヶ月)は、ものすごくココロを開いてくれていました。
 まだ、よく自分がおかれている状況が分かっていないのであろう、「ここはどこですか?」みたいな顔をして坐っている。
 治療をしていると飽きて来るのか、むずがって泣くが、それほど「拒否」の印象は受けない。
 私の顔を見て泣くには泣くが、「とりあえず、なんかよく分からへんけど、とりあえず、怖いから、とりあえず、泣いといてやるか」みたいな泣き方をする。
 「おーそうか、そうか。泣け泣け~。泣くのが商売や、がんばれ~。大きな泣き声やな~、元気やな~」とか言いながら治療をする。
 「泣いている」という事実を認識しつつも、まったく心にとめずに治療を続けていると、子どもも、「泣いても無駄かい」と分かる。
 分かるともう泣かない。

 しかしこの患者の場合、問題は患者にではなく、お母さんにある。
 このお母さん(乳児の実母)は、まったく私を信用していない。「母親(乳児の祖母)に『鍼灸院に行け』と言われたから渋々やってきただけで、本当に、私は、こんなところに、来たくなかった!」という感じが、ありありと見受けられた。
 もちろん、こんな感じのお母さんなので、あまり会話らしい会話にならないが、それでも、受け答えの節々に、話す言葉にのせて、トゲを吹き飛ばしてくるような印象を受ける。
 ココロにブロックをかけているのがわかる。
 子どもははじめ、わけが分かっていない状態で治療が開始される。
 小児はりをすると気持良いのか、不思議なのか、「何をやっているんだろう」みたいな顔で見つめている。
 お母さんがココロを開いていないんだから、私もよけいな事をしなくていいのに、ついついお母さんに話しかけたりする。
 するとお母さんは「完全拒否」で少しもココロを開かない。
 けっして無愛想にブスッと座っているわけではない。
 私の質問に受け答えをしたり、私の言う病状の説明に耳を傾け、うなずいたりしている。
 にこやかに会話し、私と私の小児はりを理解しているフリをする。
 しかし、まっっっったくココロは開かない。完全拒否…。
 
 はぁ~。疲れるね~。
  
 こういう波動に子どもは敏感で、母親が私のかけた言葉に、「完全拒否」のココロの姿勢をあらわすと、「じゃー私も、泣いときます!」と、子どもも同調して泣きはじめるからおもしろい。    
 しかしながら、おもしろがっていてもしかたがない…。
 第二診以降、予想通り来なくなった。
 「もし、七ヶ月の乳児が一人で歩いて来られるなら、通って来てくれていただろうな~」という自信はあったが、そんな事にはならない。

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