食事過多がかん虫の原因だった症例

小児鍼症例⑨ 食事過多がかん虫の原因だった症例。

患者/0才6か月・女児

主な症状(主訴)
 常に不機嫌なことが多い。
 「キーキー」と怒る。

その他
 ・手術や長期入院などされましたか? いいえ
 ・生まれたときの体重 1980g
 ・現在体重 7㎏
 ・ご飯は? よく食べる。
 ・便は? 普通~やわらかい。
 ・睡眠時間 7時~6時。
 ・昼寝は? する。
 ・分娩 帝王切開。
 ・食物アレルギー 不明。

東洋医学的 四診(所見) 
 やや肩こり有り。
 背部(肩甲骨の下)に筋肉のハリと軽い「邪」。「熱」はそれほど感じられない。
 足の三里穴のスジがパンパン(左>右)。
 
治療方針
 おそらく、飲食と消化のバランスが崩れているのではないかと感じた。
 「ミルクをよく飲む。ビックリするくらい飲む。二卵性双生児の兄(2200g)より良く飲む。しかし、飲んだら吐く。吐いたらまたミルクを欲しがる」とのことでした。ここから2つの可能性が導き出されます。
 ミルクをよく飲むことについては、後述します。

治療と経過

初診(某年11月31日)
 治療は「治療方針」に従う。
 やや肩こり、背部の筋肉のハリと軽い「邪」は、軽くさばく程度。
 足の三里穴のスジが治療のメインになる。
 もちろん刺激量も、左>右になる。

第二診(12月3日)
 「ハリの効果かどうか知らないが、ここ数日、期限の良い日が続いている」とお母さん。
 「もちろん、ハリの効果です」と私は言いました。(笑)
 肩のコリ、背部の邪気の感じはマシに。
 三里のスジはまだパンパン。
 治療は「第一診」に同じ。

第三診(12月7日)
 三里のスジの硬さが和らぐ。
 硬いことは硬いが、それでも指で押すとへこむようになる。 
 治療は「第一診」に同じ。

感想(考察)
  
 第3診以降、来られないところを見ると、主訴が取れ、お母さんもほっとしたのではないかと思っています。
 ただ、まだまだ三里のスジが硬かったので、もう少し通ってほしかったというのが本音です。 

 上でも書きましたが、お母さんが、「ミルクをビックリするくらい飲む。二卵性双生児の兄より飲む」と話されていました。ここから2つの可能性が導き出されます。

 ひとつは、低体重児で生まれてきたために、それ(体重)を取り戻そうと、必死にミルクを飲んでいることです。
 私のところの次女も低体重児で生まれてきましたが、ある時を境に、そりゃ親が「何かの病気か!」と思うくらいの食欲をあらわしました。
 たしか4~5歳ごろ、1年くらい良く食べました。その後、ピタッと姉の時と同じような量に戻りましたが、3歳上の姉より良く食べました。
 他の低体重児で生まれてきた子どもをお持つお母さんに聞いてみましたが、多かれ少なかれ、そのような時期があったそうです。
 おそらく、体重を取り戻そうとしているのではないかと思っています。医学的な根拠はありません。私の臨床から感じた感覚です。

 ふたつめは、双子の兄との「お母さんの取り合い」です。
 カルテに記載が無いので、うろおぼえですが、たしか、母乳とミルクの半々だったと思います。8か月を過ぎたので、そろそろ離乳食をと考えていた時期だったと思います。
 たとえ、人工ミルクとはいえ、ミルクを飲んでいる間はお母さんを独占できます。それが母乳ならなおさらです。それで、必死に飲んでいるように感じました。

 消化吸収には、我々が思っている以上に、膨大なエネルギーを必要とします。また、消化吸収できる量も決まっていますし、場所も限られています(キャパの問題)。
 いろいろな理由でミルクを大量に飲むのだが、消化吸収できない。
 それで、「良く飲むが、吐く」という症状をあらわします。
 また消化吸収できたとしても、エネルギーが過多となり、運動量とエネルギー消費のバランスを崩し、「キーキー」というわけです。

 子どもが「よく食べない」と心配し、「よく食べて」も心配します。
 鍼灸が、そんな親御さんの手助けになれば良いですね。