ストレスによる首・肩のコリ、胃の痛みの症例。実は肝臓タイプの患者さん。 

ストレスによる首・肩のコリ、胃の痛みの症例
  (本当は、肝臓タイプの患者さん)

患者/
 20才代後半の女性。

主な症状/
 肩のこり、肩の痛み。胃の痛み。

症状/
 いつもは「肩のコリ」の患者さん。「本日は胃も痛む」と言う。
 本日、昼ごろから急に胃部が痛み出し、「胃がシクシク言うのを感じる」と言う。数年前にこれに似た症状が現れたことが有ったが、久しぶりの症状に驚き、急遽来院した。

東洋医学的 四診(所見)
 脈診/脈はほぼ正常。いつもより、若干速いか?
 舌診/舌もとくに気になるところは無い。舌の裏にややオ血。
 腹診/右にやや胸脇苦満。
    上腹部(臍の上)がスジバっていて、拍動している。
 触診/足の冷えがきつい。
    胸椎の2番と3番の間が狭くなっている。
 
東洋医学的な概念的理解
 脈診、舌診とも危険な情報は無い。まだ20歳代後半で若いからか?
 「胃が痛い」のになぜ舌に反応(異常)が無いのか疑問が出てくるが、後述する。
 腹診ー上腹部がスジバっていて、拍動しているのは、ストレスによる諸症状のある患者さんには多い所見。このスジバリが緩み、拍動がおさまっていくと、精神状態も落ち着いてくる。
 右の胸脇部がやや苦満なのはいつもどおり。「肝臓タイプ」のストレスの感じ方をする患者さんである事を示唆している。
 「胃が痛い」といいながら、腹部の胃に関係する部位に反応が現れないのが府に落ちないが、後述する。

治療と経過

初診/某年1月上旬
 いつも「肩こり」で来られる患者さん。「本日は胃も痛む」とのこと。
 治療は法に従う。
 とくに「胃の痛み」に対する治療はしなかった。いつもどおり治療。

第二診/初診から1週間後に来院。
 「胃の痛みはまし」とのこと。
 治療は第一診に同じ。

第三診/第2診から1週間後に来院。
 「胃の痛みは無い。肩こり(の治療を)よろしく!」とのこと。
 治療は第一診に同じ。

この後、だいたい週一回から月二~三回のペースで来院。

感想
 この患者さん、いつもは比較的忙しくないセクションで働いていたが、「正月の5日くらいまで、べらぼうに忙しいセクション」にまわされ、年末年始、残業につぐ残業で、「この1ヶ月、ほど休んでいない」と言う。
 7日にようやく休みがもらえ、8日に出勤をした。

 8日に出勤し、いつもの部署に帰ってみると、大嫌いな課長が左横に坐っている。
 「なぜかその日は一日中、無償に腹がたった」と言う。
 何かを言われたわけでもないが、「そこに課長がいる」ということが気に入らなくて、イライライライラしていた。
 すると、昼ごろから胃が急に痛み出し、これさいわいと、胃が痛いのを理由に早退し、治療院に駆け込んだと言う。

 「胃の痛み」と聞いて、早急に、「足の陽明胃経だ!」なんて考えたら、この患者さんは治りません。
 理由は分かりませんが、「胃の痛み」はたまたまです。
 それが証拠に、腹症にも表れていません。
 この患者さんはもともと、「肝臓タイプ」のストレスの感じ方をする患者さん。
 それがたまたま、胃にも来ただけであって、惑わされてはいけません。

 なぜ、胃にきたのかは不明です。
 しかし、「ストレス」のところでも書きましたが、「肝臓タイプ」の患者さんの胃に、ストレスの反応があってはダメだという法則はありません。
 また、触診により、胸椎の2番と3番の間が狭くなっていることから考えてみれば、「心・肺経から肩・首残りに来るタイプ」である疑いも出てきます。

 このように、ストレスを原因とする諸症状は、患者さんによってバラバラで、あらわす症状はひとつとはかぎりません。
 この患者さんのように、基本的には「肝臓タイプ」であったとしても、「胃・消化器」に痛みが出たり、「心・肺経から肩・首残りに来るタイプ」である疑いが出てきたりと、いろいろなパターンが考えられます。
 患者さんが100人いれば100パターン、1000人いれば1000パターンあると考えて差し支えないでしょう。

 その患者さんがどのような症状で、どのような原因が考えられ、どのような治療が必要かは、鍼灸師が自分で判断するしかありません。

 マニュアルはありません。
 教科書にも書いていません。
 患者さんが教科書です。