ひざ関節の疾患(総論)。変形性膝関節症の治療法。鍼灸治療。

ひざ関節の疾患(総論)
  (変形性膝関節症)

変形性膝関節症の西洋医学的概念

 ひざの疾患にも色々ありますが、患者数も多く、よく遭遇する疾患と言えば、変形性膝関節症でしょう。
 ここでは、「変形性膝関節症」について書いていこうと思います。

 膝関節の老化によるもので、まず関節の軟骨がすり減ってきて、次いで骨のへりがでっぱり(骨棘)、特有のX線写真を呈してくるものを変形性膝関節症と言います。

 ひざの痛みと可動性の低下がおもな症状ですが、関節液がたまる場合もありますので、腫れも認められます。
 痛みは朝起きたときのほうが強く、少し動かすと楽になります。
 階段や坂道は、下りのほうが痛いのがふつうです。正座は一般にできなくなります。
 朝より夕方の方が痛みが強い方は、筋肉的なものを疑った方が良いです。
 しかし、「膝関節症だから、絶対に朝の方が痛い!」というわけではありません。何にでも、例外はあります。

西洋医学的な治療

 体重を減らすことで関節の負担を少なくすることは有効です。概してこれは太った人に多い病気です。
 正座をやめ椅子の生活にします。
 あまりに水がたまったときは注射針を刺し、抜いてもらうと楽になります。このとき関節液の成分を注入しておくのも有効です。関節の炎症をおさめるような薬(消炎鎮痛薬)を内服や湿布で使うこともよくおこなわれます。
 ひざを伸ばす筋(大腿四頭筋)を鍛えておくと関節の安定性がよくなり、ひいては病気の進行を予防します。たいてい「がにまた」になってきますが(内反膝)、骨を切ってすこし外反に体重のかかり具合を変えると非常に楽になることがあります。
 しかし軟骨のすり減りがひどければ人工関節に取り換えるしかないでしょう。術後の経過はたいてい良好ですが、股関節の項で述べたように感染に注意する必要があります。(以上、主に『家庭の医学』を参考に、まとめさました)

個人的な意見

 個人的な意見ですが、書いておきます。
 まず、「水を抜く」という治療ですが、これは、「緊急避難的治療」と考えていただいた方が良いかと思います。「どうしても痛くて仕方がない」という時はしかたありませんが、多くても年に、1~2回程度。3回以上は抜かない方がいいでしょう。理由は後述します。

 また、ひざ関節の人工関節手術ですが、『家庭の医学』には、「術後の経過はたいてい良好」と書いていますが、「そうでもないんじゃないかな~」というのが私の感想です。人工関節手術後の違和感、痛み、足のだるさを訴えられて治療に来る患者さんはけっこういます。
 まっ、手術後に何の問題もなければ、鍼灸院になんぞ来ないわけですから、鍼灸院に来る患者さんは、この、「たいてい良好」のグループからはずれた方でしょう。
 統計を取ったわけではないので、偉そうにはいえませんが、「手術した人全員が全員、良くなる」というものではないようです。
 ご自分の年齢と、膝関節の痛み具合と、行動範囲を考えて、手術に踏み切るかどうか、判断されたら良いかと思います。

ひざの疾患の東洋医学的概念

 ひざ関節の病の東洋医学的病名として、「脚気(かっけ)」という病名があります。
 「脚気」は、西洋医学では「ビタミンB1の欠乏症」となっていますが、東洋医学ではもっと範囲が広く、「脚のやまい全般」という意味でとらえた方が良いでしょう。「脚の病気の総称」と言いかえても良いでしょう。

 『鍼道発秘講義』の中から、脚気の項を引用しておきます。
 『脚気は、男は腎虚、婦人は血海の虚によって起こる。足腫れ、痛み、重く、もし腹に入る時は、大事なり。章門、京門、環跳を深く刺すべし。又、足の三陽を多く刺すべし。血絡有らば、三稜鍼にて血を出すべし。』

 「男は腎虚、婦人は血海の虚によって起こる」とあります。たいがいの病気は「虚」から始まりますが、男女の別を書いています。男性は腎の虚、つまり生命力そのものの減退を言っています。女性は血の虚が原因。気血水理論でいう、血の虚、または血の滞りによって脚気が起こります。
 「足腫れ、痛み、重く」が主な症状。
 「もし腹に入る時は、大事なり」が西洋医学と違うところ。西洋医学では、ひざの病気はひざの病気、腹の病気は腹の病気と、関連性をまったく無視していますが、ひざと腹は密接な関係があります。
 「章門、京門、環跳を深く刺すべし。又、足の三陽を多く刺すべし。血絡有らば、三稜鍼にて血を出すべし」は、治療法を述べています。

ひざの局所はどうなっているのか(なぜ、水は抜かない方がいいのか?)。

 ひざに何らかの原因によって、熱が生じます。この原因は、加齢によるものかもしれませんし、ひざを使いすぎたからかもしれません。とにかく(西洋医学的に言えば)炎症がおこり、熱が生じます。

 大変です、ひざが「火事」になっています。このままではまわりも丸焼けです。どうしましょう?
 消火するしかありませんね。どうやって?
 水をかけるしか、方法がありません。
 しかし、ひざそのものにある水は量が限られています。どうしましょうか?
 正解は、「全身から水を集めてきて火事を消す」です。

 よく、「膝に水がたまったから抜いてもらった」という人がいますが、間違いですね。
 水は「たまったもの」ではなく、「わざわざ全身から集められたもの」ですので、むやみに抜いてはいけません。

 「ひざがパンパンに腫れて、痛くて痛くてたまらない」、「痛み止めも効かない」、「うずいてうずいて、寝られない」というのでしたら、抜くこともしかたないかもしれません。しかし、なるべくなら抜かない方向でがんばりましょう。

 具体的な症例や治療法は、症例報告をご覧下さい。