ひざの痛み。
「膝に水がたまっているが、抜くほどではない」と言われた患者さんの症例
患者/50代前半の女性。
主訴/膝の痛み。
症状/
5~6日前より右の膝が痛み出した。
整形外科にて、「膝に水がたまっているが、抜くほどではない」と言われた。
痛いので、受診した。
東洋医学的な四診(所見)
脈診/脈は全体に沈脈。尺口の脈がとくに沈んでいる。全体に力はある。
舌診/舌は、やや黄苔。
腹診/腹は全体にぽちゃぽちゃと肥えており、水っぽい。
上腹部の胃部(ツボで言うと、中カン穴を中心)に、冷たい感じ。
下焦とその右横に、冷たい感じあり。
右の横腹(側複)に、太いスジバリと強い「寒」がある。
触診/右ひざは膝眼穴を中心に熱を持っているが、右足全体は左よりも冷えている。
東洋医学的な概念的理解(診断)
脈診では、身体の奥深くに病があることを暗示している。しかし体力はある。
舌診でも、身体の奥深くに病があることを暗示している。
腹診では、顕著なのは「水毒」。もちろん、膝に炎症が出ると、すぐに浮腫します。その他には、身体が冷えていて、上手く膝の方まで血液が行っていないような印象を受けます。この右・横腹(側複)の、太いスジバリをゆるめて、強い「寒」を温めてやれば、治癒しそうな気がしてきます。
治療と経過
初診/某年6月12日
治療は「法」に従う。
基本的には、①気海穴(任脈経)と右の下焦をよく補い、②右の横腹部の冷えたスジバリをよく緩めます。
すると、大腿の外側の靭帯(腸脛靭帯)がゆるみます。この靭帯がゆるめば、膝の痛みも緩みます。
第二診/7月11日
初診から約1ヵ月後に、ひょっこり来院。
「膝そのものの痛みは、治療直後にほとんどなくなった。今日は念のために来た」と言う。
治療は法に従う。
治療後、「体質改善のために、月2回くらいは通って下さいね~」と言ったが、それ以来痛みがなくなったのか、まったく来なくなった。再発して苦しまなければよいが・・・。
感想
この患者さんは、腹も膝も水っぽいので、身体の中で余っている余分な水分を、外に排出させる治療が主となりました。
「膝の痛み」の患者さんの場合、大きく分けて2種類に分類できます。
ひとつは、「膝そのものが悪くて、膝が痛んでいる」場合。
この場合は多く、なぜ痛み出したのかが明確にわかる物です。
「ひねった」とか、「打った」とか、原因がはっきりしている場合が多いです。
ふたつめは、「膝そのものはそれほど悪くないが、膝が痛んでいる」場合。
この場合は、膝全体が痛むことが多く、原因がはっきりしない場合が多い。
患者さんに聞くと、痛む部位や原因をはっきり言えない場合が多い。
「とにかく痛くて膝を動かせない」と言う。
この患者さんの場合は、後者に分類できます。
実際、整形外科医に、「膝に水がたまっているが、抜くほどではない」と診断されましたが、「とにかく痛くて歩けない」と言う。
また、「5~6日前より」と、痛み出した時間ははっきりしているものの、原因がはっきりしない。
しかし本人は、「痛くて歩けない」と言う。
これは、「膝そのものが悪くて、膝が痛んでいる」のではなく、「膝そのものはそれほど悪くないが、なんらかの原因がほかにあって、膝が痛んでいる」からに他ならない。
だから、膝ばかり触っていても、ちっとも治りません。
膝にある「熱」をとる治療はもちろんですが、腹や膝にたまっている余分な水分を、外に排出させる治療が主となります。