膝関節症。かなり重症の膝関節症の患者さん。ひざ関節の痛みは改善していたが、残念な結果になってしまった患者さん。

膝関節症
  かなり重症の膝関節症の患者さん。
  ひざ関節の痛みは改善していたが、残念な結果になってしまった患者さん。

患者/50歳代中頃の女性。

主な症状/左ひざの痛み。

症状/
 左ひざ、とくに左ひざの裏が痛み、45度以上曲げられない。
 近隣の整形外科にて、「二週に一回の割合で水を抜くが、いっこうに良くならない」と言う。
 診断名は、「左ひざ・膝関節症」。
 脚の内側、内踝から大腿中央付近まで痛みがある。

東洋医学的 四診(所見)/
 脈診/数、細、沈。弱い印象。左右とも、関上が浮き気味か?
 舌診/やや黄苔。
    裏面オ血。
 腹診/全体的に、ポチャポチャのお腹。触ると波打つ。「腐った瓜」のような状態。
    帝王切開の跡を中心に「寒」。
    左下腹部に圧痛点あり。
 触診/足はやや浮腫ぎみ。

東洋医学的な概念的理解(診断)/
 脈診では、沈・細・弱など、今にも死にそうな脈をしているが、見た目は太っていて汗っかきで、死にそうには見えない。数脈が出ているのも気になる。しかし、脈状と身体の状態がアンバランスなほど危険。
 舌診では、深くに病があることを暗示している。舌の裏面にはオ血の反応。おそらく帝王切開の手術痕が影響して、血の巡りが悪いんだろう。
 腹診では、帝王切開の手術痕を中心とした「寒」に目を向けねばならない。
 下腹部の圧痛のあるところは、婦人科疾患、とくにオ血の絡んだ病の反応が良く出るところ。
 また、圧痛点のある方の足(左足)が悪いことにも目を向けておく必要がある。

 ひざの疾患(東洋医学でいう脚気)の場合、悪い方の足と同側の下腹部および横腹に問題がある場合が多い。
 スジバリ、硬結、圧痛、手術痕…。
 注意して診察をしなければならない。

治療と経過

初診/某年8月3日
 眼の付け所としては、下焦の「寒」、右下腹部の圧痛、ひざ関節の治療でよく使うツボ(たとえば、膝眼穴、血海穴、三里穴など)。
 「ひざの裏が痛んで曲げられない」と言うので、委中穴等も有効な治療穴になる。

治療直後/患者さんは、「深く曲げられるようになった」と喜んでいたが、屈曲角度は60度程度。私自身は不満が残るが、刺激が過剰になっても仕方がないので、これ以上治療するのをやめ、様子を見てもらった。

第二診/8月10日
 下焦の「寒」が著しいので、関元穴に一鍼。温める様な鍼。「腰までひびくね」と患者さん。

 『鍼道発秘講義』の脚気の項目には、関元穴等の下焦に関したツボの指定はされていないが、「脚気は、男は腎虚、婦人は血海の虚によって起こる」とあるので、下焦も重要な治療点になる。
 「章門、京門、環跳」と、この三つにはツボの指定はある。
 「足の三陽を多く刺すべし。血絡有らば、三稜鍼にて血を出すべし」も、重要なポイント。

第三診/8月11日
 昨日の治療がよく効いたのか、喜んで今日も来る。
 痛みがきつい時なら続けて来た方が良いが、慢性期に入っている時は、「来たから治る」というものではない。
 ひざを使いながら治し、治しながらひざを使う。
 「気長に、長期間来た方が良い」という事を話し、とりあえず来ちゃったので、治療をする。
 治療が昨日の今日なので、刺激量はひかえめにする。
 石部鍼灸院の経営上はありがたい患者さんではあるが…。(笑)

第四診/8月22日
 足の「生きたツボ」をさがしている時、然谷穴に反応が有るのに気がつき、一鍼下す。
 すると、「頭のてっぺんと、腰に来る。気持ちいい」と言う。
 良い反応。こんなにいい反応をする患者さんばかりだと、ありがたい…。
 私自身が、あまり然谷穴(足の少陰腎経)を使わないので、印象に残った。

第五診/8月24日
 足の三里穴を中心に、バンバン瀉法で鍼をしていると、「ひざの内側がしびれてきた」と患者さんが言う。

 我々鍼灸師が不慣れな時(初学時代)、一番肝を冷やすのは、患者さんの状態の急変です。内心、患者さんの急変に肝を冷やしつつ、平静を装い、「へぇ~そうですか~」などと言いつつ、ひざの内側を探ると肝経(足の厥陰肝経)に沿ったラインが、さっき触った時より冷たくなっている。あわてて曲線穴に一鍼を下し、あたためる。
 すると、「しびれが消えた」と患者さん。内心ホッとしつつ、患者さんを帰す。

第六診/8月27日
 前回の治療でおもしろい「鍼の響き」があったせいか、「今日は、ものすごく楽」と言う。
 顔の色が良くなっている。とくに目のまわりのクマが黒かったのが、薄くなってきた。
 患者さんに「目のまわりのクマが黒かったのが、薄くなってきた」と言うと、「エステに行かんでも良いようになった」と、冗談を言って喜んでいた。

第七診/8月29日
 本日より自宅灸を始める。ツボは主に、膝眼穴、血海穴、三里穴など。

第八診(8月31日)

電話連絡(9月1日)
 患者さんから電話がかかってきて、何ごとかと思うと、「治療院から帰る途中で駅の階段を踏み外し、ひざを痛めた。今朝になって激痛が走り、足が腫れているので、(いつも行っている近隣の)整形外科にて水を抜いてもらった。来週の予約をキャンセルしたい」と言う。了解して電話を切る。

 しかしその後、その患者さんはまったく来なくなってしまった。
 急に来なくなったので、心配をしていたが、この患者さんの事をよく知っている知り合いの患者さんが教えてくれたところによると、「整形外科の医者に、鍼灸院なんぞに行くな!」と叱られ、鍼灸院への通院を禁止されたと言う。

 あ~あ。
 ひと昔前ならいざ知らず、今どき、鍼灸院への通院を禁止する整形外科医って何?
 順調に、良くなっていたのに…。
 残念…。

 しかしその後、この患者さんの友人から、「あの人、膝の人工関節の手術をしたらしいで」という話を聞いた。
 あ~あ…。

感想

 この患者さんは、かなり重度の膝関節症といえます。
 しかし、鍼灸の治療により、良い方向に行っていました。

 駅で、階段を踏み外さなければ…。