左ひざの痛み。
横腹のきついスジバリとひざの痛みが連動している症例。
患者/50歳代中頃の女性。
主な症状/左ひざの痛み。
症状
左ひざが痛む。
それと同じくして腰も痛む。
患者様の話によれば、「高血圧症意外は正常値」との事。高血圧の薬は飲んでいる。
東洋医学的 四診(所見)
脈診/右の脈はやや浮き気味。「浮脈」とまではいえないような脈。
左の脈は、ぼわ~んと膨らんでいる感じで浮いている。
舌診/表面はとくに異常なし。
裏面、オ血。
腹診/右季肋部に「寒」。
左上腹部にやや硬く触れるものあり。
左横腹にきついスジバリ。
下焦の「寒」がかなりきつい。
下焦の「寒」から流れ出るような感じで、左下腹部に「寒」がある。
触診/ 足の痛みの訴えに比して、熱感はあまりないように感じた…。
東洋医学的な概念的理解(診断)/
脈診では、左右とも「浮いている」が、舌診や腹診を合わせて考えると、純粋な「浮脈」とは言い切れない。
舌診では、読み取れる情報が少ない。裏面のオ血が、ひざの痛みと関連しているとは思えない。
腹診では、全体的に「寒」の傾向が強い。左上腹部にやや硬く触れるもの、左横腹のきついスジバリ、下焦の「寒」から流れ出ているような印象の左下腹部の「寒」、このどれもが、左の膝に疾患がある事を教えている。
治療と経過
初診(某年8月8日)
下焦の「寒」と横腹のスジバリがメインに治療点となる。
もちろん「主訴」がヒザなので、ヒザも触るが、ヒザはあくまでも、治療の「メイン」ではない。
左右を比較すると、左の横腹のスジバリは硬く、さらに冷えていた。
『鍼道発秘講義』に、「大寒(冷ゆる症なり) 是れは其の鍼を深くして、久しく留むべし。(後略)」とある。参考にすると良いでしょう。
治療直後/横腹のスジバリがゆるむと同時に、「膝の痛みがすこしまし」と言う。
第二診(8月12日) 治療は第一診に同じ。
第三診(8月20日) 高血圧の治療も合わせて開始。
第四診(8月22日) 腹部の「寒」が、全体的にましになったように感じる。
「氷の冷たさ」から、「水の冷たさ」へ変化する。
第五診(8月25日) 腹部の「寒」に加え、横腹のスジバリもゆるんでくる。
第六診(8月30日) 良い状態が続いている。
第七診(9月3日)
第八診(9月22日) 治療の間隔があいたので心配したが、それほど悪化することなく過ごせている。
第九診(10月2日)
第十診(10月10日)
第十一診(10月15日) 下腹部(下焦・左下腹部)の「寒」が消え、「寒」はヘソの周辺のみになる。
第十二診(10月22日) 足三里のスジ(足の陽明胃経上の三里穴付近から下腿の中央付近まで)に熱感があるので、胃経上から瀉法を施す。しかしながらまったく消えないのであきらめて、陽陵泉穴付近より瀉法を施す。すると、三里穴付近の熱寒と筋の緊張がゆるむ。陽陵泉の下方(陽交穴もしくは外丘穴)を探り、鍼を施すとさらに、三里穴付近の熱寒と筋の緊張がゆるんだ。
『鍼道発秘講義』には、「脚気(かっけ) 脚気は、男は腎虚、婦人は血海の虚によって起こる。足腫れ、痛み、重く、もし腹に入る時は、大事なり。章門、京門、環跳を深く刺すべし。又、足の三陽を多く刺すべし。血絡有らば、三稜鍼にて血を出すべし。」と、「三陽多く刺すべし」しか記述がないが、どうも、足の少陽胆経との関連が深いように感じるが…。
第十三診(10月29日)
第十四診(11月6日)
第十五診(11月12日)。
第十六診(12月10日)
第十七診(12月14日)
第十八診(12月17日)
第十九診(12月21日)
第二十診(12月25日)
第二十一診(12月28日)
この、12月28日を最後に、当院が正月休みに入ったので、それ以降来院しなくなった。状態も良くなっていたので、一応、「治癒」としてカルテを閉じた。
感想
この患者さんの場合は、腹のスジバリや「寒」の状態の変化が、膝の状態の変化に直結している点が、実におもしろい。
お腹の「寒」を治療すると、ヒザが良くなり。
お腹の調子が悪くなってくると、ヒザも悪くなる…。
不思議だ…。
腹のスジバリや冷たいところが改善された事が、ひざの症状の緩快につながっているとは、西洋医学的に考えるとまったく理解できない。
しかし、東洋医学では、最も当然至極な事である。
縷々述べない。
繋がっているんだから、しょうがない…。