小児鍼 小児はり

刺さない鍼、小児ばり(接触鍼)について
 
 昔から大阪を中心とした関西圏では「小児ばり」がさかんで、「夜鳴き」だと言っては「鍼灸院」、「疳の虫」だと言っては「鍼灸院」、と言うぐあいで、けっこう小児ばりが盛んでした。
 しかし現在は核家族化も進み、昔ながらの知恵も伝わらなくなったようです。残念ですね。

 以下に、小児ばりついて少し書かせていただきました。ぜひ、お読みください。ちなみにこの「小児鍼」の読み方ですが、小児「ばり(はり)」でも小児「しん」でもどちらいいようです。

刺さない鍼=小児ばり(接触鍼)について。

 まずは、上の写真をご覧ください。

 左は、純銀製の「イチョウ型」の小児鍼。右は、これも純銀製の「てい鍼」という道具です。
 本当は、純「金」製のほうが良いらしいですが、高くて手が出ません。(笑)
 純銀製は、1本5千円程度ですが、純金製は、10万円くらいします。高いっちゅうねん!

 さて、この金属のバチや棒をどうするのか? やり方は簡単です。まず、ツボにあてて刺激してやります。「刺激」といっても、子どもは皮膚が敏感なので、「置いておく」、または「触れておく」、「さすってやる」。または「接触させておく」だけでも十分です。「接触鍼(せっしょくしん)」という名前はここか来ています。

 しかし、じっと置いていても子どもは飽きてきますので、「こちょこちょこちょ~」っと、言いながら動かしたり、「もしもし~、元気ですか~?」と言いながら皮膚をこすったりします。時には、「♪ さいたー、さいたー。チューリップの花が・・・」などと、子どもと一緒に歌いながら治療します。
 子どもがあきてしまって、ぐずりだしちゃったりすると手がつけられないので、けっこう大変です。

 もう少し詳しく話すと、右の「てい鍼」は、子どもの体の中に、「元気になれよ~」と、エネルギーをそそぎこむような治療をしたいときに使います。
 その逆に、左の「イチョウ型」の小児鍼は、「病気なんか、あっち行け~」と、子どもの体の中から、悪いものを追い出すような治療をするときに使います。

 もちろんこれは、「基本」の治療で、患者さん(子どもさん)の症状その他によって、変化をつけてやります。


鍼は刺さなくてもなおります!


 小児鍼をしていると、お母さん方からよく、「鍼って、刺さなくても治るんですね~」と、不思議がられます。
 「鍼灸院」なのに、鍼を刺さなければ、灸もしない。ただ、変な棒や道具を子どもの身体に押しあてて、「こちょこちょこちょ~」って言っているだけで、子どもの顔色は見る見るよくなり、どよ~んと死んでいた目が生きいきとしてきます。不思議なものです。
 
 しかし私ども鍼灸師は、「鍼が刺さった機械的な刺激で病気が治る」などという、単純な理解をしておりません。人間の体は、もっと不思議で、もっと神秘的で、もっとすばらしいものです。
 それは、妊娠と出産と日々の育児をされておられるお母さんなら、理解していただけると思います。

 東洋医学独特の概念に、「気」とうい考え方があります。この「気」は、生命エネルギーのかたまりのようなものです。この生命エネルギーのカタマリが、身体の中をかけめぐり、人体を健康に栄養しています。

 しかしこの「気」が、何らかの原因で滞り始めると、「病気」になります。この病気の症状は千差万別であり、一言で言うわけにはいきませんが、肝心なことは、この「滞っている状態」を動かしてやって、「滞っていない状態」にしてやれば病気は治ります。理屈は簡単です。

 これは、大人でも子どもでも、みんな同じです。


小児ばりは、どんな病気に効くの?
 
 よくある質問で、「小児はりは、どんな病気に効くんですか?」という質問を受けます。一瞬、言葉につまります。なぜなら、何にでも効くからです。

 昔から大阪を中心とした関西圏では「小児ばり」がさかんで、「夜泣き」だと言っては鍼灸院。「かんの虫」だと言っては、鍼灸院。と言うぐあいで、けっこう小児ばりが盛んでした。しかし現在は核家族化も進み、昔ながらの知恵も伝わらないようです。

 しかし今でも、「昔、弟が気持ちよさそうに、小児はりをしてもらっているのを見たことがある。うちの子どもにもしてもらいたいんやけど、小児はりやってますか?」と、電話がかかってきたり、「うちの母に、『鍼灸院に行け』と言われて来ました」というお母さんなどなど・・・。「すたれた」、「一般的ではない」などと言われながらも、小児鍼はしぶとく生き残っています。

 やっぱり、良いものは残りますね。


アトピー、ぜんそく=得意分野!

 さて、最近とくに相談が多いのが、「アトピー」や「ぜんそく」です。総じて、「アレルギー系」の病気に悩んでおられるお母さんがたくさんいます。後述しますが、「悩んでおられる」のが、「お子様」ではなく、「お母様」であるところがポイントです。

 アトピー性皮膚炎で皮膚がぼろぼろのお子さんをよく診ます。また、季節の変わり目に決まって、咳き込むお子さんも。それ以外にもさまざまな相談を受けます。

 アトピーとぜんそくにしぼってお話しますが、よくよくこの二つを観察すると、根っこは同じもののように感じます。なぜなら、アトピーの皮膚症状とぜんそく様の症状を、交互にくり返す子どもをよく見かけるからです。

 アトピーとぜんそくは、西洋医学的にはまったく「違う」病気です。しかし、季節が変わり、ぜんそくが落ちついたと思ったら、アトピーで皮膚がぼろぼろになり、アトピーがましになったと思ったら、またぜんそく発作を起こすというお子さんがけっこういます。

 つまり、根本は一緒だということです。子どもの体の中に、「アトピー」や「喘息」を起こす、「悪いもの」があり、それが根っこにあるわけです。我々はそれを「毒」と呼んでいますが、その「悪いもの」が、皮膚に浮き出て「皮膚炎」を起こしたり、またある時には、肺の方に行って、「ぜんそく」を起こしたりします。ですから、体の中から、「悪いもの」を追い出してやれば治ります。

 いくら西洋薬を使って、病気の症状を「押さえ込んだ」としても、根っこを
治療しなければ同じです。また元に戻ってしまいます。ただ単に、元に戻るだけならいいのですが・・・。


 アトピーやぜんそくは、本当に小児はりがよく効きます。ぜひ、ご相談いただきたいと思っております。


「かんの虫」について。

 私の鍼灸院に、「小児はり」で来られるお母さん・お父さんに来院理由を聞くと、いろいろな症状で悩み、鍼灸院の門をたたいているようです。
 おもなものを列挙しますと、かん虫(夜なき、ぐずり)、視力低下、きげんが悪い、脳性まひ、鼻づまりなどです。しかしその中でも一番多いのはやはり、「かんの虫」ですね。

 ここでは参考に、谷岡賢徳(たにおかまさのり)先生の著書、『わかりやすい小児鍼の実際』より、「症状別来院児数」の表を引用しておきます。

力ンムシ予防 172人
キーキー声をだす 153人
夜泣き 73人
ケンカをする 69人
食欲不振 56人
咬みつく 56人
すぐ目覚める 54人
アトピー性皮膚炎 54人
セキがでる 53人
鼻水がでる 45人
目を開けて寝る 40人
病気予防 41人
夜尿症  36人
喘息 35人
不眠 29人
肩こり 28人
便秘 27人
その他 19人
鼻炎 12人
扁桃炎 12人
ヒキツケ 12人
どもり 10人
下痢 8人
歯ぎしり  8人
乳吐き 5人
腹痛 3人
頭痛 3人
手足の痛み 3人
熱がでる 3人

 「キーキー声を出す」、「夜泣き」、「かん虫予防」の3つだけで、来院理由の大半をしめますね。「かん虫=小児はり」の認知度が、ある程度高いことが分かります。


「かんの虫」とは何か?

 さて、そもそも、「かんの虫」とはなんでしょうか?

 「かんの虫」と言われてすぐの思いつくのは、「夜なき」ですね。その他には、奇声を発する、怒りっぽい、噛みつく、すぐに泣くなどですか・・・。前出の、『小児鍼の実際』には、

 「主な症状は、夜泣き、キーキー声をだす、よく人に咬みつく、所かまわず頭をぶつける、よく泣く、食欲がない、便秘、下痢、しばしば熱をだしたり咳をしたりする、ヒキツケを起こす等である。現代医学的には、小児神経症の一種と考えてもよい。親の愛情不足や子供を取り巻く生活環境も大きく関与している。」

 と、まとめています。


 また、荒木正胤先生の『漢方養生談』には、
 「①青い筋(静脈)が上眼瞼、眉間または鼻根部、コメカミ、耳のうしろなどの、いずれかにできているばあい。(これは新鮮な野菜類を食べないで、肉類や糖分を過食するために、アチドージスとなり、酸性血液が多くなるためにおこる症状です)②鼻の下や口の周囲が赤くなってかゆがり、よくかく。(葛根湯を用いる症状です)③手足がやせて、お腹だけ大きくふくれる。④人にかみついたり、自分の爪をかじる。(以上はビタミン不足による)⑤壁土や線香、炭や灰をたべる。(これはカルシウムの不足による)⑥寝つきが悪く、夜間に目をさましやすい。⑦神経が過敏になって、泣きやすく、おこりっぽい。⑧過食すると不眠になり、ひきつける。⑨突然、乳を吐く。⑩偏食で甘いものばかり食べて、ご飯を食べな⑪いくら食べても肥らない。⑫間食をむやみに要求して、食事をあまりとらない。⑬カゼをひきやすい。⑭よくねむる。(嗜眠症)⑮意地わるくなり、不機嫌がちになる。⑯扁桃腺炎や、耳下腺炎になり、顎下腺がはれる。⑰グリグリ(淋巴腺)が、ちょっとのことでもすぐでる。⑱歯ぐきにポツポツと粟粒腫がでる。⑲お腹がやわらかく、または筋ばって、大便がかたい。⑳ものにおじ、こわがり、突然に泣く。㉑夜間急に起きだして泣く。22 泣くときには、ブルブルふるえて泣く。23 強情で、人のいうことをきかない。24 ときどき原因不明の高熱をだす。25 人見知りをして、はにかむ。26 ねぼける。泣きわめく。27 皮膚に光沢がない。」

 と、書かれています。


 いっぱい羅列されて、よく分からなくなってきました。まとめてみましょう。
 少なくとも「かんの虫」と云うのは、とても広い概念であるということは分かりますね。

 実は「かん虫」という概念は、風邪や小児特有のはしか、おたふく風邪、みずぼうそう等の「感染性疾患」、すり傷・きり傷・骨折等の「外傷性疾患」などを除いた、「すべての小児のあらわす疾患」ということになります。

 あれも「かんの虫」、これも「かんの虫」です。ぜ~んぶ、「かんの虫」です。
 「そんな乱暴な・・・」と、おっしゃられるかもしれませんが、そんなことはありません。
 概して小児の場合は、大人のようにストレスで胃をボロボロにしたり、暴飲暴食・アルコールやタバコで身体を痛めつけておりませんので、病気の発症のメカニズムが大人ほど複雑ではありません。いろいろな症状は出てきますが、どんな病気でも、ぜんぶ、「かんの虫」の治療で行ってかまいません。

 どんどん鍼灸院に通って、どんどん治しましょう。


こんな病気にも効きます(病名編)。

 以下に、病名を列記しておきます。

 ちょうど、『小児科東洋医学』という便利な本がありましたので、病名だけ抜き出して列挙しときました。ご参考下さい。(参考文献=『お母さんのための小児科東洋医学』 前田昌司・前田為康著 現代書林刊 1200円)

内臓の病気と症状(内科)
 貧血。虚弱体質・低体重児。便秘。下痢・消化不良症。胃潰瘍・十二指腸潰瘍。自家中毒(周期性嘔吐症)。急性気管支炎。百日ぜき。はしか。小児結核。急性腎炎・ネフローゼ症候群。チアノーゼ。鼠径ヘルニア。免疫不全症。

小児成人病
 小児肥満。小児糖尿病。高血圧。

脳と神経の病気と症状(脳外科・脳神経科)
 ひきつけ。熱性けいれん。小児てんかん。脳性マヒ。ダウン症。水頭症・小頭症。その他の脳・神経の障害。

こころの病気と症状(精神・神経科)
 かんの虫・かんしゃく。夜驚症。チック。どもり。自閉症。ことばの遅れ。不眠症。自律神経失調症。心身症。小児性うつ病。精神発達遅滞(精神薄弱)

骨格の異常や運動神経の遅れ(整形外科)
 首のすわりが悪い・発育不全。からだがやわらかい(筋緊張低下児)。運動機能の遅れ。先天性股関節脱臼。脊柱側彎症・くる病。斜頸。顔面神経マヒ。進行性筋ジストロフィー。

泌尿器の病気と症状(泌尿器科)
 夜尿症。

耳、鼻、のどの病気と症状(耳鼻科)
 耳鳴り・難聴。中耳炎。鼻炎。蓄膿症(副鼻腔炎)。扁桃炎。おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)

目の病気と症状(眼科)
 屈折異常(近視・遠視・乱視)。斜視・弱視。飛蚊症。

アレルギー・皮膚の病気と症状
 湿疹・じんましん。アトピー性皮膚炎。アレルギー性鼻炎・花粉症。気管支喘息。

@参考文献@

 『わかりやすい小児鍼の実際』 谷岡賢徳著 源草社刊 2500円
 『お母さんのための小児科東洋医学』  前田昌司・前田為康著 現代書林刊 1200円
 『漢方養生談』 荒木正胤著 大法輪閣刊 (絶版中。入手困難)
 『小児針法』 米山博久・森秀太郎共著 医道の日本社 (絶版中。入手困難)


東洋医学は、子どもとお母さんに「やさしい医療」です。

 「小児はり」は、「はり」と言っても、身体に針をブスブス刺すのではなく、金属の棒や板を皮膚に押したり、当てたり、さすったり、こすったり、なでたりする治療法です。はりを直接刺しませんので、不意に動いたりする子どもにも、とても安全な治療法です。もちろん、注射もしなければ薬も使いません。とても安全な治療法です。

 そんな、「なでたり・さすったり」の治療ですが、西洋医学にも劣らない治療効果をあげていますし、西洋医学的には考えられないような治療効果をあらわすことも多々あります。

 もちろん、急性の重篤な感染症だとか、骨折などの重傷の場合は、一刻も早い西洋医師の診断と治療が必要になります(悠長に鍼灸院なんぞに来ている場合ではない)。また先天的に重度の障害をお持ちのお子さんは、治療効果の現れにくい場合もあります。もちろん、そのお子さんの身体機能が向上したり、精神状態がものすごく落ち着いたりしますので、それだけでも、治療しに来る価値は十分ありますが・・・。

 これらの点を理解しつつ、鍼灸などの東洋医学を選択肢の一つに入れることは、親御さんにとっても、そのお子さんにとっても、大変有意義な決断です。

 ぜひ、選択肢の一つに加えてもらいたいものです。