小児鍼 小児はり

刺さない鍼、小児ばり(接触鍼)について
 
 昔から大阪を中心とした関西圏では「小児ばり」がさかんで、「夜鳴き」だと言っては「鍼灸院」、「疳の虫」だと言っては「鍼灸院」、と言うぐあいで、けっこう小児ばりが盛んでした。
 しかし現在は核家族化も進み、昔ながらの知恵も伝わらなくなったようです。残念ですね。

 以下に、小児ばりついて少し書かせていただきました。ぜひ、お読みください。ちなみにこの「小児鍼」の読み方ですが、小児「ばり(はり)」でも小児「しん」でもどちらいいようです。

刺さない鍼=小児ばり(接触鍼)について。

 まずは、上の写真をご覧ください。

 左は、純銀製の「イチョウ型」の小児鍼。右は、これも純銀製の「てい鍼」という道具です。
 本当は、純「金」製のほうが良いらしいですが、高くて手が出ません。(笑)
 純銀製は、1本5千円程度ですが、純金製は、10万円くらいします。高いっちゅうねん!

 さて、この金属のバチや棒をどうするのか? やり方は簡単です。まず、ツボにあてて刺激してやります。「刺激」といっても、子どもは皮膚が敏感なので、「置いておく」、または「触れておく」、「さすってやる」。または「接触させておく」だけでも十分です。「接触鍼(せっしょくしん)」という名前はここか来ています。

 しかし、じっと置いていても子どもは飽きてきますので、「こちょこちょこちょ~」っと、言いながら動かしたり、「もしもし~、元気ですか~?」と言いながら皮膚をこすったりします。時には、「♪ さいたー、さいたー。チューリップの花が・・・」などと、子どもと一緒に歌いながら治療します。
 子どもがあきてしまって、ぐずりだしちゃったりすると手がつけられないので、けっこう大変です。

 もう少し詳しく話すと、右の「てい鍼」は、子どもの体の中に、「元気になれよ~」と、エネルギーをそそぎこむような治療をしたいときに使います。
 その逆に、左の「イチョウ型」の小児鍼は、「病気なんか、あっち行け~」と、子どもの体の中から、悪いものを追い出すような治療をするときに使います。

 もちろんこれは、「基本」の治療で、患者さん(子どもさん)の症状その他によって、変化をつけてやります。


鍼は刺さなくてもなおります!


 小児鍼をしていると、お母さん方からよく、「鍼って、刺さなくても治るんですね~」と、不思議がられます。
 「鍼灸院」なのに、鍼を刺さなければ、灸もしない。ただ、変な棒や道具を子どもの身体に押しあてて、「こちょこちょこちょ~」って言っているだけで、子どもの顔色は見る見るよくなり、どよ~んと死んでいた目が生きいきとしてきます。不思議なものです。
 
 しかし私ども鍼灸師は、「鍼が刺さった機械的な刺激で病気が治る」などという、単純な理解をしておりません。人間の体は、もっと不思議で、もっと神秘的で、もっとすばらしいものです。
 それは、妊娠と出産と日々の育児をされておられるお母さんなら、理解していただけると思います。

 東洋医学独特の概念に、「気」とうい考え方があります。この「気」は、生命エネルギーのかたまりのようなものです。この生命エネルギーのカタマリが、身体の中をかけめぐり、人体を健康に栄養しています。

 しかしこの「気」が、何らかの原因で滞り始めると、「病気」になります。この病気の症状は千差万別であり、一言で言うわけにはいきませんが、肝心なことは、この「滞っている状態」を動かしてやって、「滞っていない状態」にしてやれば病気は治ります。理屈は簡単です。

 これは、大人でも子どもでも、みんな同じです。


小児ばりは、どんな病気に効くの?
 
 よくある質問で、「小児はりは、どんな病気に効くんですか?」という質問を受けます。一瞬、言葉につまります。なぜなら、何にでも効くからです。

 昔から大阪を中心とした関西圏では「小児ばり」がさかんで、「夜泣き」だと言っては鍼灸院。「かんの虫」だと言っては、鍼灸院。と言うぐあいで、けっこう小児ばりが盛んでした。しかし現在は核家族化も進み、昔ながらの知恵も伝わらないようです。

 しかし今でも、「昔、弟が気持ちよさそうに、小児はりをしてもらっているのを見たことがある。うちの子どもにもしてもらいたいんやけど、小児はりやってますか?」と、電話がかかってきたり、「うちの母に、『鍼灸院に行け』と言われて来ました」というお母さんなどなど・・・。「すたれた」、「一般的ではない」などと言われながらも、小児鍼はしぶとく生き残っています。

 やっぱり、良いものは残りますね。


アトピー、ぜんそく=得意分野!

 さて、最近とくに相談が多いのが、「アトピー」や「ぜんそく」です。総じて、「アレルギー系」の病気に悩んでおられるお母さんがたくさんいます。後述しますが、「悩んでおられる」のが、「お子様」ではなく、「お母様」であるところがポイントです。

 アトピー性皮膚炎で皮膚がぼろぼろのお子さんをよく診ます。また、季節の変わり目に決まって、咳き込むお子さんも。それ以外にもさまざまな相談を受けます。

 アトピーとぜんそくにしぼってお話しますが、よくよくこの二つを観察すると、根っこは同じもののように感じます。なぜなら、アトピーの皮膚症状とぜんそく様の症状を、交互にくり返す子どもをよく見かけるからです。

 アトピーとぜんそくは、西洋医学的にはまったく「違う」病気です。しかし、季節が変わり、ぜんそくが落ちついたと思ったら、アトピーで皮膚がぼろぼろになり、アトピーがましになったと思ったら、またぜんそく発作を起こすというお子さんがけっこういます。

 つまり、根本は一緒だということです。子どもの体の中に、「アトピー」や「喘息」を起こす、「悪いもの」があり、それが根っこにあるわけです。我々はそれを「毒」と呼んでいますが、その「悪いもの」が、皮膚に浮き出て「皮膚炎」を起こしたり、またある時には、肺の方に行って、「ぜんそく」を起こしたりします。ですから、体の中から、「悪いもの」を追い出してやれば治ります。

 いくら西洋薬を使って、病気の症状を「押さえ込んだ」としても、根っこを
治療しなければ同じです。また元に戻ってしまいます。ただ単に、元に戻るだけならいいのですが・・・。


 アトピーやぜんそくは、本当に小児はりがよく効きます。ぜひ、ご相談いただきたいと思っております。


「かんの虫」について。

 私の鍼灸院に、「小児はり」で来られるお母さん・お父さんに来院理由を聞くと、いろいろな症状で悩み、鍼灸院の門をたたいているようです。
 おもなものを列挙しますと、かん虫(夜なき、ぐずり)、視力低下、きげんが悪い、脳性まひ、鼻づまりなどです。しかしその中でも一番多いのはやはり、「かんの虫」ですね。

 ここでは参考に、谷岡賢徳(たにおかまさのり)先生の著書、『わかりやすい小児鍼の実際』より、「症状別来院児数」の表を引用しておきます。

力ンムシ予防 172人
キーキー声をだす 153人
夜泣き 73人
ケンカをする 69人
食欲不振 56人
咬みつく 56人
すぐ目覚める 54人
アトピー性皮膚炎 54人
セキがでる 53人
鼻水がでる 45人
目を開けて寝る 40人
病気予防 41人
夜尿症  36人
喘息 35人
不眠 29人
肩こり 28人
便秘 27人
その他 19人
鼻炎 12人
扁桃炎 12人
ヒキツケ 12人
どもり 10人
下痢 8人
歯ぎしり  8人
乳吐き 5人
腹痛 3人
頭痛 3人
手足の痛み 3人
熱がでる 3人

 「キーキー声を出す」、「夜泣き」、「かん虫予防」の3つだけで、来院理由の大半をしめますね。「かん虫=小児はり」の認知度が、ある程度高いことが分かります。


「かんの虫」とは何か?

 さて、そもそも、「かんの虫」とはなんでしょうか?

 「かんの虫」と言われてすぐの思いつくのは、「夜なき」ですね。その他には、奇声を発する、怒りっぽい、噛みつく、すぐに泣くなどですか・・・。前出の、『小児鍼の実際』には、

 「主な症状は、夜泣き、キーキー声をだす、よく人に咬みつく、所かまわず頭をぶつける、よく泣く、食欲がない、便秘、下痢、しばしば熱をだしたり咳をしたりする、ヒキツケを起こす等である。現代医学的には、小児神経症の一種と考えてもよい。親の愛情不足や子供を取り巻く生活環境も大きく関与している。」

 と、まとめています。


 また、荒木正胤先生の『漢方養生談』には、
 「①青い筋(静脈)が上眼瞼、眉間または鼻根部、コメカミ、耳のうしろなどの、いずれかにできているばあい。(これは新鮮な野菜類を食べないで、肉類や糖分を過食するために、アチドージスとなり、酸性血液が多くなるためにおこる症状です)②鼻の下や口の周囲が赤くなってかゆがり、よくかく。(葛根湯を用いる症状です)③手足がやせて、お腹だけ大きくふくれる。④人にかみついたり、自分の爪をかじる。(以上はビタミン不足による)⑤壁土や線香、炭や灰をたべる。(これはカルシウムの不足による)⑥寝つきが悪く、夜間に目をさましやすい。⑦神経が過敏になって、泣きやすく、おこりっぽい。⑧過食すると不眠になり、ひきつける。⑨突然、乳を吐く。⑩偏食で甘いものばかり食べて、ご飯を食べな⑪いくら食べても肥らない。⑫間食をむやみに要求して、食事をあまりとらない。⑬カゼをひきやすい。⑭よくねむる。(嗜眠症)⑮意地わるくなり、不機嫌がちになる。⑯扁桃腺炎や、耳下腺炎になり、顎下腺がはれる。⑰グリグリ(淋巴腺)が、ちょっとのことでもすぐでる。⑱歯ぐきにポツポツと粟粒腫がでる。⑲お腹がやわらかく、または筋ばって、大便がかたい。⑳ものにおじ、こわがり、突然に泣く。㉑夜間急に起きだして泣く。22 泣くときには、ブルブルふるえて泣く。23 強情で、人のいうことをきかない。24 ときどき原因不明の高熱をだす。25 人見知りをして、はにかむ。26 ねぼける。泣きわめく。27 皮膚に光沢がない。」

 と、書かれています。


 いっぱい羅列されて、よく分からなくなってきました。まとめてみましょう。
 少なくとも「かんの虫」と云うのは、とても広い概念であるということは分かりますね。

 実は「かん虫」という概念は、風邪や小児特有のはしか、おたふく風邪、みずぼうそう等の「感染性疾患」、すり傷・きり傷・骨折等の「外傷性疾患」などを除いた、「すべての小児のあらわす疾患」ということになります。

 あれも「かんの虫」、これも「かんの虫」です。ぜ~んぶ、「かんの虫」です。
 「そんな乱暴な・・・」と、おっしゃられるかもしれませんが、そんなことはありません。
 概して小児の場合は、大人のようにストレスで胃をボロボロにしたり、暴飲暴食・アルコールやタバコで身体を痛めつけておりませんので、病気の発症のメカニズムが大人ほど複雑ではありません。いろいろな症状は出てきますが、どんな病気でも、ぜんぶ、「かんの虫」の治療で行ってかまいません。

 どんどん鍼灸院に通って、どんどん治しましょう。


こんな病気にも効きます(病名編)。

 以下に、病名を列記しておきます。

 ちょうど、『小児科東洋医学』という便利な本がありましたので、病名だけ抜き出して列挙しときました。ご参考下さい。(参考文献=『お母さんのための小児科東洋医学』 前田昌司・前田為康著 現代書林刊 1200円)

内臓の病気と症状(内科)
 貧血。虚弱体質・低体重児。便秘。下痢・消化不良症。胃潰瘍・十二指腸潰瘍。自家中毒(周期性嘔吐症)。急性気管支炎。百日ぜき。はしか。小児結核。急性腎炎・ネフローゼ症候群。チアノーゼ。鼠径ヘルニア。免疫不全症。

小児成人病
 小児肥満。小児糖尿病。高血圧。

脳と神経の病気と症状(脳外科・脳神経科)
 ひきつけ。熱性けいれん。小児てんかん。脳性マヒ。ダウン症。水頭症・小頭症。その他の脳・神経の障害。

こころの病気と症状(精神・神経科)
 かんの虫・かんしゃく。夜驚症。チック。どもり。自閉症。ことばの遅れ。不眠症。自律神経失調症。心身症。小児性うつ病。精神発達遅滞(精神薄弱)

骨格の異常や運動神経の遅れ(整形外科)
 首のすわりが悪い・発育不全。からだがやわらかい(筋緊張低下児)。運動機能の遅れ。先天性股関節脱臼。脊柱側彎症・くる病。斜頸。顔面神経マヒ。進行性筋ジストロフィー。

泌尿器の病気と症状(泌尿器科)
 夜尿症。

耳、鼻、のどの病気と症状(耳鼻科)
 耳鳴り・難聴。中耳炎。鼻炎。蓄膿症(副鼻腔炎)。扁桃炎。おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)

目の病気と症状(眼科)
 屈折異常(近視・遠視・乱視)。斜視・弱視。飛蚊症。

アレルギー・皮膚の病気と症状
 湿疹・じんましん。アトピー性皮膚炎。アレルギー性鼻炎・花粉症。気管支喘息。

@参考文献@

 『わかりやすい小児鍼の実際』 谷岡賢徳著 源草社刊 2500円
 『お母さんのための小児科東洋医学』  前田昌司・前田為康著 現代書林刊 1200円
 『漢方養生談』 荒木正胤著 大法輪閣刊 (絶版中。入手困難)
 『小児針法』 米山博久・森秀太郎共著 医道の日本社 (絶版中。入手困難)


東洋医学は、子どもとお母さんに「やさしい医療」です。

 「小児はり」は、「はり」と言っても、身体に針をブスブス刺すのではなく、金属の棒や板を皮膚に押したり、当てたり、さすったり、こすったり、なでたりする治療法です。はりを直接刺しませんので、不意に動いたりする子どもにも、とても安全な治療法です。もちろん、注射もしなければ薬も使いません。とても安全な治療法です。

 そんな、「なでたり・さすったり」の治療ですが、西洋医学にも劣らない治療効果をあげていますし、西洋医学的には考えられないような治療効果をあらわすことも多々あります。

 もちろん、急性の重篤な感染症だとか、骨折などの重傷の場合は、一刻も早い西洋医師の診断と治療が必要になります(悠長に鍼灸院なんぞに来ている場合ではない)。また先天的に重度の障害をお持ちのお子さんは、治療効果の現れにくい場合もあります。もちろん、そのお子さんの身体機能が向上したり、精神状態がものすごく落ち着いたりしますので、それだけでも、治療しに来る価値は十分ありますが・・・。

 これらの点を理解しつつ、鍼灸などの東洋医学を選択肢の一つに入れることは、親御さんにとっても、そのお子さんにとっても、大変有意義な決断です。

 ぜひ、選択肢の一つに加えてもらいたいものです。


小児はり症例集 

 【症例 1】

 患者01、1才6か月。男性。

 主な症状(主訴)

 夜泣きと夜眠るのが遅いこと。

 症状(現病歴)

 9月中旬より断乳(初診は11月14日)。その頃から、夜泣きをするようになる。暗くなると怖がって寝ない。
 早く寝かしつけると、深夜1時くらいに起き出し、早朝5時くらいまで寝ない。夜12時くらいに寝ると、8時くらいまで寝ている。
 昼寝は2時間ほどするが、昼寝を良くしてもしなくても泣く。

 その他の持病など(既往歴)

  ・手術や長期入院などされましたか? いいえ
  ・生まれたときの体重 3284g
  ・現在体重 約11㎏
  ・ご飯は? よく食べる
  ・便は? 普通
  ・睡眠時間 夜12時ごろ~朝8時ごろ
  ・昼寝は? する
  ・分娩 帝王切開
  ・食物アレルギー ない
  ・紙おむつ している
  ・保育所 行っていない

 東洋医学的 四診(所見) 

 頭皮が硬い印象(帝王切開の影響もあるので、関係ない情報かも)。
 頭部の額部に邪気のライン。
 それ以外は手に触れる症状は無し。
 下腹部の虚も背部の邪気も感じられない。 
 
 治療方針
 
 おそらく頭部にある邪気のラインによって脳が刺激され、夜泣きを起こしたモノと判断し、これを取り除くを第一に考え治療を行う。

 治療と経過

初診
(某年11月14日)
 頭部の邪気をハラウことに重点を置くが、そればかりやっていると、治療部位が頭部に集中し、(いわゆる東洋医学でいうところの)「気」が上昇する恐れがあるので、全身にバランスよく治療を施す。

第二診
(11月15日)
 昨夜の睡眠は深夜1時から8時まで。
 初診時には気にならなかったが、「肩こり」が顕著になる。治療は「第一診」に加え、肩こり部ももみほぐすように施術。「もみほぐす」と言っても、小児なので手技は柔らかくする。

第三診
(11月16日)
 昨夜の睡眠は夜12時から9時まで。肩のコリがずいぶんマシになる。頭皮の硬い印象も薄れる。

第四診
(11月17日)
 昨夜の睡眠は夜12時半から10時まで。

 感想(考察)
 
 第1診から連続4日間通われたが、それ以降来なくなりました。お母さんとしては、「8時とか9時に寝かせつけたい」という気持ちが強かったのかもしれませんが、私は、徐々に睡眠時間が延び、途中覚醒が無くなったので、「良い治療ができている」と判断しました。
 お母さんが求めるものと、こちらが求めるものが違うと、なかなかうまく治療ができません。
 
 1歳4カ月と、少々遅い時期の断乳になっています。時期は別にして、断乳時というのは子どもが不安に陥りやすい時期です。断乳したから「もう乳児から幼児になった」と突き放すのではなく、よりいっそうスキンシップをする方が良いでしょう。


 【症例 2】

 患者02。3才7か月。男性。

 主な症状(主訴)

 咳(特に夜間)。

 症状(現病歴)

 咳こみ、とまらなくなって吐く。
 1週間前に病院にて、気管支を拡張するシールと漢方薬(薬方名不明)をもらうがあまり変化が無い。

 その他の持病など(既往歴)

 ・手術や長期入院などされましたか? いいえ
 ・生まれたときの体重 2830g
 ・現在体重 15.5㎏
 ・ご飯は? よく食べる。
 ・便は? 普通。
 ・睡眠時間 11時~9時。
 ・昼寝は? しない。
 ・分娩 普通分娩。
 ・食物アレルギー 無し

 東洋医学的 四診(所見) 
  
 指を診ると(小児の場合は人差し指で、大人の脈状診と同じことをする)、全体的に赤く・熱く、動悸もある。
 舌体は細く、苔は白苔。舌先の発赤は無い。
 腹部全体に発疹。下腹部は「寒」ではないがやや冷たい。「虚」というほどでもないが下腹部の抵抗感はない。背部の皮膚はザラザラした印象。全体的に皮膚は軟らかく(ヤワラカイといっても、柔軟ではなく、軟弱の方)、ところどころ湿疹があるので、アトピー性皮膚炎も疑われる。「喘息が治るとアトピー性皮膚炎に、アトピーが治ると喘息に」を繰り返すタイプかもしれない。
 「下の子ども(二男)が生後10カ月で、手がかかる」と言う。それも影響しているのではないか。

 治療方針
 
 脈状と舌診、腹診の状況が、湯液でいうところの太陽病と陽明病の両方をあらわしている。
 もともと消化器系が強くないところに邪に入られ、咳・嘔吐などの症状をあらわしていると理解し、治療をする。

 治療と経過

初診
(某年 1月31日)
 治療は「法」に従う。

第二診
(2月1日)
 昨晩、咳を2、3度することはあったが、セキこむことが無くなった。ちょっと「カゼ」のような症状が出てきた(頭部・額部に邪熱)。下腹部の「虚」は力強くなる。背部のざらつき感がマシに。
 治療は「第一診」に加え、「カゼ」の治療も同時に。

第三診
(2月3日)
 微熱と鼻が出てきた。咳・嘔吐はしなくなった。
 治療は「第一診」に同じ。

 感想(考察)

 上でも書きましたが、もともと消化器系が強くないところに邪に入られ、咳・嘔吐などの症状をあらわしていると理解し、治療を開始しました。治療により、入ってきた邪が出ていく過程で「カゼ」のような症状が出てきました。良い治療になっていると思われます。しかし、咳が治ったからか、「カゼ」の症状が強くなったからか、第3診以降、来られなくなりました。


 【症例 3】 患者

 0才7か月。女性。

 主な症状(主訴)

 かん虫。

 症状(現病歴)

 すぐにキーキー、ギャーギャー言う。
 夜泣きもひどい。寝入りは良く、3時間ほどは良く眠るが、それ以降は30分から1時間の間隔で起きて泣く。抱いて授乳させると泣きやむ。おしゃぶりで寝ることもある。。

 その他の持病など(既往歴)

  ・手術や長期入院などされましたか? いいえ。
  ・生まれたときの体重 2818g
  ・現在体重 7.7㎏
  ・ご飯は? 普通。
  ・便は? 普通。
  ・睡眠時間 夜10時から8時。
  ・昼寝は? する。
  ・分娩 普通分娩。
  ・食物アレルギー ない。

 東洋医学的 四診(所見) 

 眉間(みけん)にくっきりとした青筋。
 肩こり強し。
 下腹部・下焦がやや「虚」の状態。
 足三里のスジ(前脛骨筋)が少し硬い印象を受ける。
 
 治療方針

 全体的に体格の良い子どもで、生後7カ月なのに立とうとする。ハイハイを充分しないと背筋が弱くなるので、ハイハイの訓練を指示。肩・首のコリ、足三里のスジを重点的に治療する。

 治療と経過

初診
(某年 3月8日)
 治療は「法」に従う。
 治療直後、肩のコリと足三里のスジがゆるんだ感じがしたので、良しとする。

第二診
(3月10日)
 「前回の治療の後、30分から1時間の間隔で起きて泣いたのが、2時間おきになる。昨晩もギャーギャー泣いていたが、抱くとすぐに泣きやんだ。泣き声が小さくなったように感じた。また、昼間、一人にすると絶対に泣き叫び手がつけられないような状態になっていたが、昨日は一人で座って遊んでいた」と言う。
 旦那さんが帰宅時に、「眉間の青筋が薄くなっている!!」と驚いたそうだ。

 眉間(みけん)のくっきりとした青筋は少し薄くなる。肩こりはマシに、「やや硬い」程度まで減。下腹部のやや「虚」の状態は変わらず。足三里のスジは少しマシになったが、硬いのは、硬い。
 治療は「第一診」に同じ。

第三診
(3月17日)
 治療は「第一診」に同じ。

第四診
(3月20日)
 3月18~19日、実家の和歌山まで車で帰省。そのせいか、青筋も戻り、夜泣きももとに戻った。おそらく、車での長時間の移動や親せきの「だっこ攻撃」によって、症状がぶり返した。
 治療は「第一診」に同じ。

第五診
(3月22日)
 睡眠は、2時間睡眠の後・覚醒、2時間睡眠・覚醒、1時間睡眠・覚醒、1時間睡眠・覚醒、30分睡眠・覚醒、30分睡眠・覚醒のリズム。「起きるのは起きるが、泣かなくなった!」と喜ばれていた。
 治療は「第一診」に同じ。

第六診
(3月26日)
 第6診から第12診まで、週2回のペースで来院。

第十三診
(4月21日)
 だいぶん症状が落ち着いてきたので、治療間隔を週1回に減らす。

 この後、だいたい週一回のペースで治療(調子の悪い時は週2回)。約3ヶ月ほど小児はりを続け、かなり症状が軽くなった頃から来院しなくなった。その後、思い出したように2~3回治療しては約半年間隔が開き、またカゼをひいて機嫌が悪くなると思い出したように来るということを繰り返す。
 
 しばらく来なくなったので心配していたが、近所の公園でばったり出会い、その後の様子を聞くと、「下の子ども(次女)ができると一時期赤ちゃん帰りをしたものの、それ以降は良いお姉ちゃんになり、よく手伝ってくれる。夜泣きも全然しない」との事だった。

 感想(考察)

 眉間や額の青筋は、夜泣きやかん虫のときによく現れるサインで、不思議なことに、夜泣きやかん虫の症状が取れてくると、青筋が薄くなってくる。逆に、症状がぶり返してくると、青筋が濃くなってくる。
 この子の場合もそうであるが、体格も良く、元気で、よく食べる子どもでも、ちょっとしたバランスが崩れると、このような症状をあらわす。子どもは元気の塊なので、正常に発散してくれている間は良いのだが、何かのきっかけでエネルギーを発散しそこなうと、夜泣き・かん虫になって現れる。

 この子の初診は0歳7か月です。
 子どもは生後半年間は母親の免疫をもらって生まれてくるので病気が少ないが、この頃を過ぎたあたりから自己免疫に切り替わり、一気に病気が増えることになります。もともと胃腸が悪かったり、元気な子どもでもちょっとした寒暖の差やストレスを感じると、すぐに邪を受け(西洋医学的に言うとウイルスや細菌類の感染)、カゼをひいたり様々な症状を表わします。

 体内でちょっとしたバランスが崩れることにより、夜泣きやかん虫が現れます。


 【症例 4】 患者

 0才11か月。男性。

 主な症状(主訴)

 アトピー性皮膚炎。

 症状(現病歴)

 顔、背中などアトピーがひどい。かゆみで夜2時間おきに起き、夜泣きしてしまう。
 生後1カ月目より発疹。医院にてステロイドを処方され塗っていたが、横浜の鍼灸院を紹介され行ってからステロイドをやめるように指示され、ステロイドをやめてから発疹がひどくなった(生後10か月)。
 各種の検査により、各種アレルギー。「腸の動きが悪い」と言われたとのこと。
 頭、顔面、胸、腹、腕、足に発疹あり。

 その他の持病など(既往歴)

  ・手術や長期入院などされましたか? いいえ。
  ・生まれたときの体重 3500g
  ・現在体重 9㎏
  ・ご飯は? 普通。
  ・便は? 普通。
  ・睡眠時間 10時から9時ごろ。
  ・昼寝は? する。
  ・分娩 普通分娩。
  ・食物アレルギー ある。

 東洋医学的 四診(所見) 

 下腹部の「虚」が顕著。腹部全体に「虚」。「寒」は無い。
 鼻閉、右足が左足にくらべて太い(理由は不明)、身体の小ささに比べて浮腫んでいるイメージ。

 漢方薬剤師の意見

 鍼灸だけでは「無理」と判断したので、知り合いの薬剤師に紹介し、漢方薬を処方してもらう。
 薬剤師のM先生よりメール。内容は以下。

  「結構ひどい状態ですね。
  あきらかにステロイドのリバウンドでしょう。
  横浜の鍼灸師は無責任ですね。怒りを感じます。
  よくも知らない薬のことを、「ステロイドは恐いから止めなさい」って止めさせる。
  リバウンドは大変です。
  ステロイドも止め方があるのに、知識のない、無教養な鍼灸師に当たった不幸です。
  ほんと患者さんがかわいそう!
  薬は消風散を出しておきました。
  共同で治療をしましょう!」

 とのこと。  
 ちなみにネットで調べると消風散は、『外科正宗』という本に載っている薬方だそうで、明の医師・陳実功が1617年に書いたものだそうです。成分は以下のとおり。会社によって、内容量は前後する。
 トウキ末2.8g セッコウ末2.8g ジオウ末2.8g ボウフウ末1.9g モクツウ末1.9g ソウジュツ末1.9g ゴボウシ末1.9g クジン末0.9g カンゾウ末0.9g センタイ末0.9g ケイガイ末0.9g チモ末1.5g ゴマ末1.5g
 荒木正胤著/『漢方養生談』によると、当帰は、「血を補い、痛みを止め、裏寒をあたため、諸瘡瘍を治す」とあり、石膏は、「煩渇を主治する。ゆえによく裏位にある大熱を解し、皮膚の枯燥を潤おし、上逆をおさめる」とあり、地黄は、「血分の熱を瀉し、血を生じ、出血を止め、経脈をととのえ、秘結をうるおす」とあります。

 つまり、血の熱や過不足をととのえ、便秘やガスの滞りを下し、諸瘡瘍を治し、皮膚を潤沢にする作用が有るお薬という事です。
 他の成分については中医学の知識が無いので、何とも言えないが、おそらく主になる成分を補うまたは効果を高める薬剤ではないかと思う。

 治療方針

 とりあえず全身を瀉。その他の治療は落ち着いてから。 

 治療と経過

初診
(某年 1月4日)
 治療は「法」に従う。ほとんど瀉法。補っている余裕はない。
 鍼灸だけでは「無理」と判断したので、M先生(薬剤師)に紹介し、漢方薬を処方してもらう。

第二診
(1月6日)
 初診後、顔面の皮膚症状が急速に引く。しかし、他の部位は不変。背中の発疹が増えたように思うが、おそらく悪い反応ではないように感じた。
 「便が良く出る様になった」と言っていた。ほとんど皮膚の熱を取る様な治療(瀉法)しかしていないのに、腹の状態が良くなり、便が出るようになったのは反応としては面白い。
 しかし、まだまだ予断を許さないような皮膚症状であることは変わりがない。

 小児はりだけでは弱いと判断し、お母さんの了解を得て、井穴刺絡を行う。その他は、第一診に同じ。

第三診
(1月8日)
 さらに皮膚炎の範囲が小さくなっている。
 治療は、下腹部の「虚」と「肩こり」を中心に施術。
 施術中は気持ち良さそうにしていたが、終わると、「もっとやってくれ」とでも言いたげな表情で泣きだした。
 「ドーゼオーバー」を気にして、さらに治療を加えるということはしなかったが、症状が激しい子どもだったので、もっとやってあげても良かったのかもしれない。

第四診
(1月13日)
 全体的に少しマシ。
 「夜、1~2時間おきに起きて泣いてぐずっていたのが、2~3時間おきに変わった」とのこと。やっぱり子どもは寝ないといけない。
 今日初めて腹診をする。それまでは皮膚の熱症状がきつかったので、腹診できなかった。
 胸に熱のこもった感じ。下腹部・下焦の「虚」。「寒」は無い。

第五診
(1月15日)
 皮膚の炎症が急激に悪化。「悪化」とはいうものの、1月4日の状態には戻っていない。
 両親ともに、漢方薬(消風散)に入っている「ゴマ」に子どもがアレルギーがあることが気になっているようで、「漢方薬をやめても良いか?」と相談を受ける。また、当院の治療に充分な効果を見れなかったようで、「他の治療法を試してみたい」とも相談を受ける。

 感想(考察)
  
 正直な話、あまりにも皮膚の状態が悪かったので、初診(4日)の時はこちらがビビってしまい、まともな治療ができなかった。
 とはいえ、顔面の皮膚の状態が良くなっているのが、小児はりの恐るべき治療効果のなせるワザか…。
 
 第2診(6日)から井穴刺絡を開始したのが良かったのか、皮膚の炎症が徐々にマシになる。それにともない、夜泣きもマシに。
 皮膚の症状がマシになったので、第4診で初めて腹診ができたが、やはり胸に熱のこもった感じや下腹部・下焦に「虚」が存在していた。

 本当に残念ながら、第5診を最後に治療に来られなくなった。
 当時は私も開業間も無くの時期であり、「私が治すから、安心して通いなさい」とも言えず、当院での治療を断念されたが、その後良い先生にめぐり合い、症状が良くなっていることを願うばかりである。

  今ならはっきりと、「私が治します!!」と言ってやれるのだが…。

 アトピー性皮膚炎の治療を行っていると必ず、ステロイドについて質問をされます。
 ステロイドは現在では副作用の少ない「良い薬」ができているという話は良く効きますが、それでも、「使わないにこしたことはない薬」であることは確かです。
 ただ、自己判断や上の薬剤師の先生が言う「知識のない、無教養な鍼灸師」の指示によって、かってにやめたり、かってに再開するのは最も危険です。医師も、充分リスクを知った上で処方しているのですから、医師に無断でやめたり再開するのは絶対にやめましょう。
 とは言え、ステロイドを処方するしか引き出しのない「知識のない、無教養な医師」も存在するわけですので、その辺は、見極めが大切ですがね…。


 【症例 5】 患者

 0才7か月。男性。

 主な症状(主訴)

 虚弱体質。

 症状(現病歴)

 まわりの子どもや上の子ども(長女)にくらべ、明らかに元気が無い。
 あまり泣かずに、ポケーっとしていることが多い。

 その他の持病など(既往歴)

  ・手術や長期入院などされましたか? いいえ
  ・生まれたときの体重 2688g
  ・現在体重 9㎏
  ・ご飯は? 食が細い。
  ・便は? 普通。
  ・睡眠時間 8時ごろから9時ごろ。
  ・昼寝は? する。
  ・分娩 普通分娩。
  ・食物アレルギー 不明。

 東洋医学的 四診(所見)と治療方針。
 
  笑いもせず、泣きもせず、あまり表情が無いように思える。お母さんが言うとおり、ポーっとしている感じ。しかし病的なものをあまり感じなかったので、「性格なのかもしれない」と判断し、体調管理を目的に、軽く治療をする。

 治療と経過

初診
(某年 1月11日)
 皮膚はあまり力が無かったが、「脱力」というレベルではなく、「元気が無い」という感じ。
 皮膚をもんで、こねて、血のめぐりを良くする心つもりで、やや力強く補的にはりをおこなう。
 その他の治療は「法」に従う。
 週1回程度通うことをすすめる。

第二診
(1月18日)
 治療中も治療後も、あまり「手ごたえ」のようなものを感じなかったので心配していたが、「良くミルクを飲むようなった」と言う。「生後3カ月ごろから母乳が出にくくなり、ミルクで育てているが、それが(元気のない)原因か」と聞くので、「出ないものはしかたがないので、心配せずに飲ませなさい」と言う。
 治療は「第一診」に同じ。

第三診
(1月25日)
 治療は「第一診」に同じ。

第四診
(2月1日)
 治療は「第一診」に同じ。

第五診
(2月8日)
 治療開始から約1カ月を過ぎ、「最近は、砂場でも他の子どもとあそぶようになった」と言う。今までは、ずっと砂を掘って、スコップですくい、砂を落とし、砂を掘る…。というような遊びを延と々続けていたという。
 治療は「第一診」に同じ。

 感想(考察)
  
 はじめパッと見た時は、「自閉症」や「何らかの染色体の異常」も考えたが、どうも違っていたようだった。
 子どもとはいえ、「哲学的に思索している子どももいるんだな~」と、感じた症例だった。

 週1回の治療を約3ヶ月間行ったが、ずいぶん元気になり、周りの状況にも興味を示し、「まわりの子どもや上の子ども(長女)にくらべても遜色(そんしょく)がない」とお母さんは言う。


 【症例 6】 患者

 0才7か月。男児。

 主な症状(主訴)

 夜なき。

 症状(現病歴)

 夜七時ごろに寝かしつけるが、二~三時間おきに起きて泣く。母乳を与えると泣きやむが、二~三時間すると泣く。明け方は一時間おきになる。まだまだ、「啼く(金属音的な泣き声)」というレベルまでは行っていないが、なかなか泣きやまない」ので、母親(患者の祖母)から「『鍼灸院に行け』って言われて、インターネットで調べて来ました」とお母さんは言う。
 その他、生まれたときの体重は二五一〇グラム、現在は八.二キロ。まるくてプクプクしているが、異常なほど太っているわけではない。ミルクは母乳、よく飲む。便はやわらかい。普通分娩。食物アレルギーとアトピー性皮膚炎がある。
 食物アレルギーは、「ミルクしか飲ませていないのでまだ詳しくは調べてもらっていない」と言うが、医師からそう診断されたらしい。アトピーは皮膚科を受診。皮膚科ではぬり薬として、アズノール(植物由来の非ステロイド軟膏とある)と一番弱いステロイド軟膏(名前不明)、飲み薬としてかゆみ止め(名前不明)をもらっているとのこと。

 東洋医学的 四診(所見)

 触診。首のまわりに熱感があるが、邪気をはらんでいるという所まではいかない。頭部と胸部にも熱感はあるが、首のまわりほどではない。下肢前面、胃経のスジがパンパンに張っている。下焦がやや虚、寒はない。

 治療方針

 生後七ヶ月ということは、ちょうど母親からもらった免疫が切れる時期に重なる。免疫が切れかかって体内のバランスを崩している所に、おそらく胃腸がもともと丈夫ではないのであろう、邪に入られた。しかし、アトピーの治療などを開始している関係なども有るのか、皮膚から汗を出す事が上手くいかず、熱がこもり、「夜なき」を発症したものと思われる。

 治療と経過

初診
(某年 6月4日)
 ばち針で熱のあるところをさばく感じで、テイ鍼で虚しているところを補う感じで治療を行う。

第二診
(6月6日)
 第二診時に触ってみると、頭部および首のまわりが少し汗ばんでいた。いい方向には向いているようだ。母親の談によると、症状については「変化は無い」との事だが、確実に良い方向に向かっているという自信はある。
 治療は「第一診」に同じ。

 感想(考察)

 この患者さんは、「小児はりを論ずる前に」という論文でも紹介した患者さんです。
 以下、そのまま引用します。

 この患者(小児・七ヶ月)は、ものすごくココロを開いてくれていた。まだ、よく自分がおかれている状況が分かっていないのであろう、「ここはどこですか?」みたいな顔をして坐っている。治療をしていると飽きて来るのか、むずがって泣くが、それほど「拒否」の印象は受けない。私の顔を見て泣くには泣くが、「とりあえず、なんかよく分からへんけど、とりあえず、怖いから、とりあえず、泣いといてやる!」みたいな泣き方をする。
 「おーそうか、そうか。泣け泣け~。泣くのが商売や、がんばれ~。大きな泣き声やな~、元気やな~」とか言いながら治療をする。「泣いている」という事実を認識しつつも、まったく心にとめずに治療を続けていると、子どもも、「泣いても無駄かい」と分かる。分かるともう泣かない。
 しかしこの患者の場合、問題は患者にではなく、お母さんにある。
 このお母さん(乳児の実母)は、まったく私を信用していない。「母親(乳児の祖母)に『鍼灸院に行け』と言われたから渋々やってきただけで、本当に、私は、こんなところに、来たくなかった!」という感じが、ありありと見受けられた。
 もちろん、こんな感じのお母さんなので、あまり会話らしい会話にならないが、それでも、受け答えの節々に、話す言葉にのせて、トゲを吹き飛ばしてくるような印象を受ける。ココロにブロックをかけているのがわかる。
 子どもははじめ、わけが分かっていない状態で治療が開始される。小児はりをすると気持良いのか、不思議なのか、「何をやっているんだろう」みたいな顔で見つめている。お母さんがココロを開いていないんだから、私もよけいな事をしなくていいのに、ついついお母さんに話しかけたりする。するとお母さんは「完全拒否」で少しもココロを開かない。
 けっして無愛想にブスッと座っているわけではない。私の質問に受け答えをしたり、私の言う病状の説明に耳を傾け、うなずいたりしている。にこやかに会話し、私と私の小児はりを理解しているフリをする。しかし、まっっっったくココロは開かない。完全拒否…。
 
 はぁ~。疲れるね~。
  
 こういう波動に子どもは敏感で、母親が私のかけた言葉に、「完全拒否」のココロの姿勢をあらわすと、「じゃ~、私も、泣いときます!」と、子どもも同調して泣きはじめるからおもしろい。    
 しかしながら、おもしろがっていてもしかたがない。第二診以降、予想通り来なくなった。「もし、七ヶ月の乳児が一人で歩いて来られるなら、通って来てくれていただろうな~」という自信はあったが、そんな事にはならない。

 アトピー性皮膚炎に食物アレルギー…。この子の今後予想される大変な人生に幸あれ!

 以上。


 【症例 7】 患者

 1才5か月。女性。
 
 主な症状(主訴)

 かん虫。

 症状(現病歴)

 思い通りに行かない時、たとえば空腹や眠たい時に、「キィーン!」と大声を出す。
 1歳ごろから夜泣きをする。いつもは耐えられるレベルだが、ここ最近耐えられないレベルになったので来院。

 その他の持病など(既往歴)

  ・手術や長期入院などされましたか? いいえ
  ・生まれたときの体重 2750g
  ・現在体重 10㎏
  ・ご飯は? 普通
  ・便は? 普通
  ・睡眠時間 無記入
  ・昼寝は? 無記入
  ・分娩 普通便便
  ・食物アレルギー 無記入

 東洋医学的 四診(所見) 
 
 季肋下にボーっとした熱感。なぜ?
 肩コリ(+)、足三里穴のスジバリ(+)。
 その他・頭部、項部などに熱感なし。 

 治療方針

 肩のコリ、足の前脛骨筋部を中心に、季肋下のボーっとした熱感部もさばく様な感じで小児はりを行う。
 季肋下のボーっとした熱感の理由は分からないが、治療を通してわかることを期待し、治療をする。。

 治療と経過

初診
(某年 8月24日)
 治療は「法」に従う。

第二診
(8月27日)
 季肋下のボーっとした熱感は少しだけ減少。肩コリ、足三里穴のスジバリは不変。後頭部に少し熱が出てきた。汗はかいていない。

第三診
(8月31日)
 特に変化なし。治療を続ける。

第四診
(9月7日)
 特に変化なし。

第五診
(9月21日)
 少し間隔が開いたが、悪化も改善もしてない。若干、季肋下のボーっとした熱感が減少している。理由は不明。

第六診
(9月28日)
 季肋下のボーっとした熱感はさらに範囲が減少しているが、存在することは存在する。
 肩コリ、足三里穴のスジバリは、初診時にくらべればマシになっているが、あることはある。
 「季肋下のボーっとした熱感」にばかり気を取られていて、確認するのを忘れていたが、主訴の「キィーン!と大声を出す」の症状が「気にならなくなった」と言う。
 子どもの声の質が減じたのか、お母さんが慣れたのか知らないが、主訴は無くなった。

 これ以降、体調を崩し、調子が悪くなったら夜泣き・かん虫が出るので、夜泣き・かん虫が出たら1~2回程度来て、また来なくなることを繰り返す。

 感想(考察)
  
 この子は、1歳になった頃から夜泣きが始まったが、ちょうどそのころ保育所に入所し、断乳し、離乳食を開始したという。
 「どれが悪い」という「犯人探し」はしないが、これらが短期間に集中したのはまずい。

 この患者さんで特筆すべきは、季肋部のボーっとした熱感があること。湯液でいうと少陽病、柴胡証になる。こういう症状を現す子どもも珍しい。深酒したわけでも、暴飲暴食したわけでもないのに…。(笑)

 結局、季肋下のボーっとした熱感の理由は分からなかったが、主訴が取れたので良しとする。
 肩こりも足三里穴の附近のスジバリも季肋下のボーっとした熱感と連動しているようで、普通、肩こりや足三里穴の附近のスジバリは2~3回の治療でとれてしまうことが多いが、この患者さんの場合は、第6診を超えたころようやく、少し緩みだした。

 「他の子どもと比べ、治りが悪いから、気長にきっちり通ってね」と言ったが、来ていない。


 【症例 8】 患者

 0才8か月。男性。

 主な症状(主訴)

 かん虫・夜泣き。。

 症状(現病歴)

 寝入ってしまえば朝まで寝てくれるが、1時間ほどだっこしてあやさないと寝ない。
 
 その他の持病など(既往歴)

  ・手術や長期入院などされましたか? いいえ
  ・生まれたときの体重 2800g
  ・現在体重 8.2㎏
  ・ご飯は? よく食べる。
  ・便は? 普通。
  ・睡眠時間 10時から7時。
  ・昼寝は? する。時々。
  ・分娩 普通。
  ・食物アレルギー 不明。

 東洋医学的 四診(所見) 

 左の肺(背中から感じる)に少し熱感を感じたほかは、とくに夜泣きやかん虫をするような子どもに思えなかった。
 「カゼをひきやすい」とのことだが、風邪気味でも風邪気味じゃなくても夜泣きはするらしい。
 
 治療方針
  
 原因がはっきりしないが、原因が分かっても、分からなくても治療できるのが、鍼灸のすばらしいところ。
 左の肺の熱感を感じたところを中心に小児はりをする。

 治療と経過

初診
(某年 10月25日)
 治療は「法」に従う。

第二診
(10月30日)
 初診の夜から、「ピタッと夜泣きがやんだ」と言う。本日は、カゼをひいたみたいなので、「念のため」来院したという。

 感想(考察)

 大人の病(やまい)の場合、「理由が良く分からない」という疾患は、長期化・難治症化する傾向にありますが、子どもの場合はその逆で、なぜ夜泣きするのか、なぜかん虫を起こしているのか、理由が良く分からない方が早く治るように感じます。しっかりと、「これこれこういう理由で、夜泣きを起こしています」という場合は、その原因を取り除いてやらないと夜泣きも治りません。

 もちろん、子どもの場合は、大人のようにストレスで身体と心をボロボロにしていたり、暴飲暴食をしたり、深酒をするなんてことが無いので、大人より早く治りますが…。
 今回も、たった1回の治療で、毎晩のように悩んでいた夜泣きが、ピタリの治まりました。


 【症例 9】 患者

 0才6か月。女性。

 主な症状(主訴)

 常に不機嫌なことが多い。
 「キーキー」と怒る。

 その他の持病など(既往歴)

  ・手術や長期入院などされましたか? いいえ
  ・生まれたときの体重 1980g
  ・現在体重 7㎏
  ・ご飯は? よく食べる。
  ・便は? 普通~やわらかい。
  ・睡眠時間 7時~6時。
  ・昼寝は? する。
  ・分娩 帝王切開。
  ・食物アレルギー 不明。

 東洋医学的 四診(所見) 

 やや肩こり。
 背部(肩甲骨の下)に筋肉のハリと軽い「邪」。「熱」はそれほど感じられない。
 足の三里穴のスジがパンパン(左>右)。
 
 治療方針
 
 おそらく、飲食と消化のバランスが崩れているのではないかと感じた。
 「ミルクをよく飲む。ビックリするくらい飲む。二卵性双生児の兄(2200g)より良く飲む。しかし、飲んだら吐く。吐いたらまたミルクを欲しがる」とのことでした。ここから2つの可能性が導き出されます。それは、後述。

 治療と経過

初診
(某年 11月31日)
 治療は「法」に従う。
 やや肩こり、背部の筋肉のハリと軽い「邪」は、さばく程度。足の三里穴のスジが治療のメイン。もちろん刺激量も、左>右になる。

第二診
(12月3日)
 「ハリの効果かどうか知らないが、ここ数日、期限の良い日が続いている」という。
 「もちろん、ハリの効果です」と言う。【笑】
 肩のコリ、背部の邪気の感じはマシに。三里のスジはまだパンパン。
 治療は「第一診」に同じ。

第三診
(12月7日)
 三里のスジの硬さが和らぐ。硬いことは硬いが、それでも指で押すとへこむようになる。 
 治療は「第一診」に同じ。

 感想(考察)
  
 第3診以降、来られないところを見ると、主訴が取れお母さんもほっとしたのではないかと思っています。
 ただ、まだまだ三里のスジが硬かったので、もう少し通ってほしかったというのが本音です。 

 上でも書きましたが、お母さんが、「ミルクをビックリするくらい飲む。二卵性双生児の兄より飲む」と話されていました。ここから2つの可能性が導き出されます。

 ひとつは、低体重児で生まれてきたために、それ(体重)を取り戻そうと、必死にミルクを飲んでいることです。
 私のところの次女も低体重児で生まれてきましたが、ある時を境に、そりゃ親が「何かの病気か!」と思うくらいの食欲をあらわしました。たしか4~5歳ごろ、1年くらい良く食べました。その後、ピタッと姉の時と同じような量に戻りましたが、3歳上の姉より良く食べました。他の低体重児で生まれてきた子どもをお持つお母さんに聞いてみましたが、多かれ少なかれ、そのような時期があったそうです。おそらく、体重を取り戻そうとしているのではないかと思っています。医学的な根拠はありません。私の臨床から感じた感覚です。

 ふたつめは、双子の兄との「お母さんの取り合い」です。
 母乳とミルクの半々だったそうです。8か月を過ぎたので、そろそろ離乳食をと考えていた時期だったと思います。たとえ、人工ミルクとはいえ、ミルクを飲んでいる間はお母さんを独占できます。それが母乳ならなおさらです。それで、必死に飲んでいるように感じました。

 消化吸収には、我々が思っている以上に、膨大なエネルギーを必要とします。また、消化吸収できる量も決まっていますし、場所も限られています(キャパの問題)。
 いろいろな理由でミルクを大量に飲むのだが、消化吸収できない。それで、「良く飲むが、吐く」という症状をあらわします。また消化吸収できたとしても、エネルギーが過多となり、運動量とエネルギー消費のバランスを崩し、「キーキー」というわけです。


 【症例 10】 患者

 1才8か月。女性。

 主な症状(主訴)

 かん虫。

 症状(現病歴)

 最近、頑固になり、おこりっぽくなることが多い。
 思いが通らないと、キィーと声をあげたり、ひっくり返ったり、すぐおこってしまう。

 その他の持病など(既往歴)
  ・手術や長期入院などされましたか? いいえ
  ・生まれたときの体重 3200g
  ・現在体重 11.8㎏
  ・ご飯は? よく食べる。
  ・便は? 普通。
  ・睡眠時間 10時から6時半ごろ。
  ・昼寝は? する。
  ・分娩 普通分娩。
  ・食物アレルギー ない。
 
 東洋医学的 四診(所見) 

 とくに所見なし。右背部にやや熱あり。肺臓か? カゼひいてるのか?
 ひたいに青筋があるものの、それほどきつくない。

 治療方針

 右背部の「やや熱」を中心に、全身を調節するように治療する。

 感想(考察)

 右背部の「やや熱」以外はとくに異常が無く、ひたいに青筋があるもののそれほどきつくないので、「早く治るだろう」という判断をした。また、上に姉(12歳)がいるので、とくに心配ないと思う。お母さんにも、「心配ない。すぐに治るだろう」と伝える。

 治療を1回しただけで来なくなったので、心配していたが、この患者さんを紹介者してくれたママ友の方から、「あれから急に怒らなくなったので、何か魔法にかけられたようだ」とビックリしていたという話を聞き、安心した。